第41話 エピローグ(2)

  この子は誰なのかしらと、青龍は思った。

 今日は自分達姉妹と黒鋼姉弟、そしてその友人達と一緒に遊ぶ予定になっている。

 その為に今夜の営業は無く店は休みだ。

 SNS等にも前もってきちんと臨時休業と書き込みし、客に伝えた筈だった。

 なのにだ。店内の椅子に少女がちょこんと座っていた。

 ライトグリーンの髪を三つ編みにしている。

 麒麟と同世代に見えるので、未成年だ。客ではない。

 視線が合うと、慌てて少女は頭を下げる。


(この子アクゥの……)


「お姉、起きんの早いねぇ、お兄ちゃん見なかった?」

 むにゃむにゃとパンツ一枚で降りてくる。

「麒麟さん、お腹出してお行儀悪い。また旦那様に夜這いをかけ……って居ないのですか?」

「うん起きたら隣りに……って誰ですかぁ?」



「ぬぅ」

「うーん」

「はうぅ」

 玄武、白虎、朱雀が加わり五人がカウンターで頭を抱えてる。


「どうだ姉さん?」

「軍のデーターバンクにアクセスしました……娘本人ですわね」

「はうぅっ、なぜここに」

「玄武姉、連絡ついた?」

「ジン、今から帰るって」

「あ、あの突然来てすいません。ここで待ってろと言われたので」

 少女は申し訳なさそうに頭を下げる。


「あなたはマジンダさんですわね……」

「はい」

「誰と待ち合わせをしてるのかしら?」

「それは」


 ガチャ。

 店の扉が外から開かれる。

 早朝から強い日差しと爽やかな風が吹き込む。

「お待たせ。中島は急用でダメだわ」

 ジン、隣りには腕を絡めるほむら。一足遅れて巧が店内に入ってきた。

「!」

 殺気立つ青龍を残りの姉妹が、ほむらの前だからと宥める。


「旦那様お話しがあります」

 グイッと耳を引っ張り二階に連れて行く。



「正座」

「はい」

 青龍が怒るのは想定内だ、ジンは素直に言うとおりにした。

「遺言として、何か言いたい事はあるかしら」

 ハイライトの消えた瞳で見おろしてくる。


(やはり俺がアクゥの眷族になったと思ってんな)


 面白いから誤解されたまま、しばらく放置するかと、ふと頭によぎるが多分洒落にならない。

 確実に殺される。

「青龍、アクゥと話しつけた。アイツは自首する……」

 青龍の表情に変化なく、話を続ける。



『ジン、僕は罪を償う。娘を頼む』



「だから、その前に娘との思い出を作ってやりたいんだ……家族が離れる辛さはわかってる……んぐっ」

 柔らかい感触に顔が呑み込まれた。

「旦那様、この青龍もアナタと別れるのは辛いですわ。でもわたくし達は前世からの縁で結ばれた魂の恋人(ソウル・ラヴァ)どんなに離れていても、想いは絆は不変ですわよ!」

(く、苦しいっ)

 玄武以上の胸を持つ青龍の乳房に顔が挟まれ、たぶんと気管が塞がる。

(死んじゃうから、マジで死んじゃうから青龍さん)

 身体をタップして危険を教えた。

「あらっわたくしとした事が」

 胸からの開放に安堵し、立ち上がろうとすると足が痺れる。

 バタン。

「おやおや、あらあら、うふふふ」

 青龍の上に倒れてしまい、押し倒した体勢になってしまった。

「朝から大胆ですわね。扉の向こう側に彼女もいるのに」

 スッと意地悪そうに目が細くなる。


「ジンちゃんお茶……ばふっ……」

 扉開けたほむらと目が合う。

「あぁ~ん駄目ですわ~旦那様ぁんん、ほむらさんの見てる前でぇん」

 青龍は甘い声で道化を演じる。

 ぷっつ~ん。

「ジンちゃんは獣かぁぁぁぁ」

「とらろっ」

 ジンはドリルほむらパンチで、先日に続き三途の川をさまよった。


「ついたぁ」

 麒麟は大きくジャンプすると砂浜を全力で走った。

 海が見たいと、暁姉妹のリクエストで向かったのは、海浜公園。複数のテナントが立ち並び、買い物もレジャーも楽しむ事ができる施設となっている。

 泳ぐにはまだ時期尚早の為に海近くは人は疎ら、麒麟はマジンダを連れて砂浜で遊びだす。

 可憐とほむらは他の姉妹を連れて、列を作るアイスクリーム屋に並んだ。

「俺達トイレ行くわ」

 ジンはそう言って玄武にアイコンタクトすると、巧を連れて海岸の方へ消えていく。


 十分程砂浜歩いていると、巧に声を掛けられた。

「この辺でいいだろ」

「あぁいいぜ」

 ジンと巧は向かい合い距離を取る。

「巧、お前の気持ちは変わらないんだな?」

「あぁ、僕は願いを叶えたい。それが例え娘を悲しませる事になろうとも」

 チッ。ジンは舌打ちする。

「気にいらねぇな」

「なら力づくで止めてみろよジン」

 睨みあう二人。だが以前までとは違い、殺気があるわけでは無かった。

 例えるならそれは、友人同士の意見のくい違いから発生した喧嘩。


「俺達は戦う事でしか分かり合えない!」


「コネクト!」

「アームズッッッ!」

 二人は狼型と犬型の武装を纏い、ジンはバリアを張った。

 これで人間は入れない。

 ぶつかり合う拳と拳。

 力は互角。

 当然である。ジンはアクゥのナノマシンで機械生命体化している。

 アナザーアクゥと呼んでもいい存在だ。故に勝敗を左右するのは力では無い。

 叶えたい願いと譲れない想い。

 どちらも引かない状態での切り札は自分だけ。気力での戦いとなるのだ。

 拳の衝撃で吹き飛び倒れ込む二人。

 同時に起き上がり距離を縮める。

「じゃっ!」

 師匠直伝、どんな手を使っても勝てばいいとジンは砂を巧の顔にぶつけた。

 フルフェイス越しだが、本能で目を閉じてしまう。

 その隙を狙い股間を蹴り上げる。

 巧は腕をクロスして足を防ぎ、その力を利用して頭上高く飛ぶ。

「けひゃ!」

 駒の様に回転し、蹴りをジンのこめかみに叩きつけた。

 意識が一瞬飛び、気づくと砂の中に埋もれている。

(ヤバい)

 慌てて顔をあげると、両足を揃えて巧が頭上から落ちてくる。

「ひっ」

 横に転がり攻撃をかわす。

 ドンッと砂塵が霧となり舞う。

 この状況を利用し体勢を整えるが、不利なのは変わらない。

 バイザーの温度センサーに映るは、拳を振りかざす犬型のシルエット。

 目視出来るまでギリギリ拳を引きつけ、紙一重で体をズラす。

 空をきった右関節を決め、へその下まで沈み込む。浮き上がる巧を投げ落とし、逆さまになり真下となった頭を蹴った。

「馬波流地獄蹴り」

 倒れた巧は動かない。

 やり過ぎたとは思っていない。全力をぶつけなければこちらが負ける。

 巧の願いを叶えるわけには、いかないのだ。

 青龍に教えたフェイクでは無く、本当の願い。それが叶えば巧の祖母が悲しむ。自分よりも先に子を亡くした。そして孫が殺された事を知った時の悲しみは想像以上でジンには理解できるわけない。


(だから、おばあちゃんの為に俺は貴様を止める)


 じゃり。巧の指が動く。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます