エピローグ

第40話 エピローグ(1)

 早朝、眠い目をこすりジンは学校へと向かう。

 全てが終わった。

 阿修羅を回収せずに破壊した事については、ゴセイオンチームにお咎めなし。引き続き行方不明のアクゥの捜査を続行せよと、本部から連絡があったと聞いた。

 アクゥはジンに任せると、暁姉妹は言った。

 未だにジンは自分の意思で人に戻ってない。故に体内にはアクゥのナノマシンがある。これは奴との唯一の繋がり。その気になれば居場所は特定できる。

 自分はどうすればいいのか?

 犬飼巧の事である。

 奴は巧を殺し肉体を奪った。

 それは絶対に許される事ではない。

 だがアクゥに同情してないといえば、それは嘘となる。

 もし自分が同じ立場となり、家族が人質になったなら躊躇無く悪魔に魂を売る。

 心で泣き懺悔し、この手を紅に染めるだろう。

 そうだ。アクゥもきっとそう思っている。だから自分は迷ってるのだ。


(俺達、二人の決着を)



「ジンちゃ~ん」

 ほむらの甘える声が聞こえた。

 ぴょこんと腕に絡んでくる。

「今日は珍しく朝から来たね」

「おぉ、ある程度は片付いたしな」

「よかった。そしたらまたこうして、毎朝登校できるね」

 うふふふと、楽しそうに笑う。

「あっ、今度の休み予定あるか?」

「何、殴り込み?」

「違う、お前はもう少し落ち……」

 言いかけて口を閉ざした。

 そうだった。ほむらは子供の頃から自分に合わせてくれていた。

(俺の居心地がいい空間を築いてくれていたんだ)

 不思議そうに可愛く首を傾けるほむらに、柔らかい笑みを見せるジンの心は温かい。

 暁姉妹が与えるものとは別の温もりを彼女から感じ、気持ちが安らいでいく。

「予定ないよ。遊ぶ?」

「おぅ。みんなでどっか行こうぜ。姉貴や中島、玄武達姉妹で」

「……うん……」

 どうしたのか。急に歯切れが悪くなる。

「どした? 玄武達と一緒ダメか?」

 今回は暁姉妹の送別会も兼ねている。

 彼女であるほむらからすれば面白くないのか。

 それは有り得ない。ほむらは嫉妬する事は無い。

 何故なら、絶対的な自信があるからだ。

 この先、ジンが他の女性と付き合う事になろうとも【幼なじみ】という関係は不変。

 常に側に居続け、最終的に私のところに帰ってくればいいと、ほむらは思っているからだ。

「そんな事ない。玄ちゃんのお姉ちゃんや妹ちゃん達に会いたいよ……あのね」

 立ち止まる二人は見つめ合う。

「巧ちゃん……何処行ったのかなって」

 チクリ。心が痛い。

「何か隠してるでしょ。いつもの私の大好きなジンちゃんなら、仲間が行方不明なのに遊びに行こうなんて言わない。見つかるまで探しまくるよ……狼は家族や仲間を大切にするって本で読んだ。だから私たちは影狼を名乗ってるって。そう理解してたのに」

 ポロポロポロポロと、ほむらの瞳から涙が零れ落ちていく。

「ほむら……俺は……」

 パァァァーン。

 資材を積んだ軽トラックがクラクションを二人に鳴らす。

「どけっガキ共! 邪魔」

「あっ誰がガキだ! 殺すぞ! じじい」

 ほむらは鞄の角を、窓から顔を出して怒鳴る運転手の鼻に、叩きつける。

「ぎゃあぁぁぁ俺っちの鼻がッッ」

 バタン。助手席からタバコを咥えた屈強の男が降りてくる。

「小便くせぇガキ共がっ……ヒッ!」

 ジンの飛び蹴りが、顔面にめり込む。

「行くぞ」

 ジンはほむらをお姫様抱っこの体勢で持ち上げると、一目散に逃げ出した。


 裏道に逃げ込み、空き地に隠れる。

「はあはあはあはあ。お前短気過ぎ」

 ほむらを降ろすが両腕は首から離さない。

「ジンちゃんなら助けてくれるって思ってたし」

 ほむらの体は震えている。

(無理しやがって)

「ほむら……巧は事情があって姿を消している。俺はそんな巧に何が出来るか、ずっと考えているんだ」

「答えは出た?」

「…………」

「ジンちゃんらしくないな。悩む必要ないよ。アタイ達不良は単純明快、拳で語ればいいのさ……ってね」

 チュッ。

 唇に柔らかな体温が伝わる。

 初めて味わうほむらの唇は、暁姉妹誰にも似てない。

 れろっ。無意識に舌を絡めてしまう。

「んっ」

 ほむらの吐息がもれる。

 れろっれろっれろっ。

「んっ……まっ……て……んっんっ」

 耳朶を口に含む。

「はぁっん」

 初めて聞くほむらの声色に、ジンの理性が消し飛ぶ。

 ワイシャツの上の乳房が、指の形にぐにゃりと歪む。

 ブラジャーの感触が邪魔だと、指先でホックを外す。

「もおぉぉぉ! ここじゃイヤッッ!」

「おっめがっ!」

 ドリルほむらパンチが、顎を貫く。

 ジンは意識を失い、倒れ込んだ。


『ジン、お前バカだろ。がっつき過ぎ』

 巧の声がする。

「うるせぇよ巧」

 ナノマシンが見せた幻なのか。

 気絶しているジンの元に、巧が現れる。

「お前……どっちだ?」

 目の前にいる少年は、幼なじみかそれとも……。

『さてね、自分でも、もうわからない』

 巧は肩をすくめる。

『お前に頼みがある』


 目をあけると、頬を膨らますほむらの顔が見えた。

「ジンちゃんが悪いんだからね」

「ほむら、ごめん」

 ジンは正座すると頭をさげた。

「むーん、初めてなんだからその辺ちゃんとしよ」

「ほんとごめん……今もさっきの事も」

「うん許す。それで巧ちゃんとは?」

「あぁ語り合う」

 そう言って拳を突き出す。

「それでこそ私のジンちゃんだよ」

 ほむらは笑い、拳を重ねた。

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