第37話 最終決戦(3)

「麒麟さんは修理に集中して、わたくしが変わります」

 ゴセイオンの目が蒼く輝くと、アクゥが人工的に創った空間内に真っ白い雪が舞い落ちる。

「雪ですか……フフフ美しい」

 スッと瞳を細めて、北斗は白く染まる月の大地を眺めた。

「美しいと感じる心があるのに、何故ヨモツ側に堕ちましたの? 死へと導く活動は決して美しいとは、わたくし思えません」

「やはり分かりませんよね。部品さえ交換すれば、限り無く不死に近い機械生命体であるアナタ方には理解できない。私達の住むこの世界は、常に不安と隣り合わせ。幸せなら幸せな分、この日常が壊れるのを恐れている。わかりますか? 大切な人を失ってしまった時の悲しみを」


『北斗』

 音々が優しく頬を撫でる。


「ヨモツは全ての世界を滅ぼす。それは決して許される行いではありません。でもね、死は生あるものにとって唯一の救いです」

「救い?」

「黄泉の国は、不安に怯えることのない不変の世界。永遠に愛する者と穏やかに過ごすことができる優しい世界。私達ヨモツ教は、そこへ誘うお手伝いをしているのです」

「危険ね、その思想」

 青龍の瞳が冷たく輝く。

「行けばわかりますよ。黄泉の国へね」

 長話は終わりですと、阿修羅は動きだす。

 頭部が回転すると紫色に変わった。


 何かが変だ。

 目の前の北斗が操る機体の様子がおかしい。

 プンッと腐臭がしてくる。この不快な臭いは、阿修羅から漂って来ていた。

 ジワジワジワジワと、紫色の霧が機体から溢れ出す。

 一体何が起きているのか。

 グキグキグキッ。

 関節が軋む音が鳴り響き、六本の腕が異常な方向に曲がり出す。

『ガッ』『ラッ』『ギッ』

 三面の口から唸り声があがった。

 体を守る装甲が見る見るうちに、ヌルヌルした蛇の鱗に覆われていく。そして胸の中央が蠢くと、球体が現れた。

 そこに映し出されたのは、北斗の姿。

『ヨモツの力をお見せしましょう』

 北斗の肉体がドロドロと溶け、阿修羅と混ざり合う。

 球体がドクンドクンと脈打ち、魂無き機体に命が宿る。

『アギャァァァァァァァァス』

 ヨダレをまき散らしながら、咆哮する。

 ギョロギョロギョロ。黄色く濁る目玉がゴセイオンを睨んだ。

「おぞましい。なんて醜い姿に」

 青龍は激しい嫌悪感で、顔を歪める。

「穢れ汚染された鬼神は、もう回収不可ですわね」


 阿修羅の腕がゴムの様に伸びて、襲いかかる。

 ゴセイオンは攻撃が届かない位置まで回避すると、左右の掌を突き出した。

 氷龍が形創られ具現化すると、冷たく光る眼光が阿修羅を睨む。

「お逝きなさい」

 主の命令を受けた龍の顎から放たれたのは、絶対零度の暴風雪。

 阿修羅は瞬く間に飲み込まれ、氷の像となった。

 倒したのか。いやまだだ。生命力は失われてない。

「タフですわね」

『ギギッ』

 氷の中から心がささくれる不快な声がする。それを追い払う為に、身動きとれない阿修羅の頭部に砲身を当てた。

「ここを破壊されても、鬼神は動けるのかしら」

 引き金をひく。氷と共に吹き飛ぶ頭部は、鼻から上が消えている。続いて肩部に砲身を合わせ発射。付け根を失った六本の腕が、本体から切り離された。

「あらっまだ生きてますの?」 

 残された上半身の一部と下半身は氷の中で蠢いている。

「わたくし残酷ですわよ」

 胸に残る球体に狙いを定める。ここを破壊すれば北斗の息の根を止める事が出来るだろう。

 ドンッッ。躊躇なく吹き飛ばす。

「!」

『ガチガチガチガチッ』

 大きな穴が空いた腹の内部から、牙を鳴らす顎が見えた。

「それが貴方の正体かしら色男さん」

 腹から紫色の鱗に覆われた六本の腕が伸びて、四肢に絡みつく。

「強引ですわね」

 ゴセイオンを体内に引きずり込もうと、腕は蠢く。

「お願い朱雀さん!」



「ふんにゅうぅぅ!」

 瞳が紅に輝く。

 紅蓮の炎が四肢を拘束する腕を焼き、自由になった手で穴の縁を掴んだ。

「全てを燃やし塵へと帰せッッッ! ゴッド・バーニング・インフェルノッッ!」

 灼熱地獄の裁きの焔は、残る阿修羅の体を燃やし断罪する。

「あなたには、地獄の業火がお似合いです」


 炎が揺らめく。

 瞳が捉えるは千切れた右腕。

「ううっ……」

 一瞬で右腕を失い、黒い血を噴き出した。

 何があったのか。わかっているのは、これが攻撃だという事だ。

 彼はまだ生きている。戦いは終わっていない。

 燃え盛る炎の中に、異形なる姿を見た。

 上半身は女性。髪の毛は逆立ち一本一本に意思があるのかクネクネとうねり、へそから下は大木のように太い蛇の尾が伸びている。


『よくも北斗をぉぉぉぉぉ!』


 朱雀の炎の中から、巨大な蛇が飛び出してくる。

 蛇神。神話に描かれる死の女神に酷似した姿に変異した音々は、六本の腕でゴセイオンを掴むと大地に叩きつけた。

 ザシュザシュザシュ。

 右腕を切断した蛇髪が先端鋭い槍となり、体を貫く。

(炎が効かない?)

 いや効いている。朱雀の炎焔は確かに音々を燃やしている。

 塵になるよりも早く再生するのだ。

 ならばどうする。どうやって虚無に帰す。

 決まっている。

 炎焔以上の熱量で蛇神を燃やせばいい。

 ゴセイオンビームのリミッタ解除。

 太陽光そのものを叩きつける。

 麒麟が今、使用不能となっているシステムを直している。

 それまで機体が保てばいい。


「負けない! 私達はあなた達に」

 群がる髪をドリル化した左腕で追い払う。

「こんのぉぉ」

 立ち上がると、出血多量で目が回る。

 この状態ではダメだ。

「お姉ちゃん達も修理にまわって、機体は私一人で操るから」

「でも朱雀、君だけじゃ」

「いえ白虎さん、ここは任せましょう」



「変わったな朱雀……」

 いつも姉妹の後ろで人の顔色をうかがい、決して自分を主張せず争いごとを好まない優しい彼女が、今や我らを引っ張っていく。

 これはやはりジンの影響か……と、玄武は仲間の為に体をはりいつも傷だらけの愛しき少年を想い、妹の成長を誇らしく思った。

「頼んだぞ朱雀」

「うん!」


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