第36話 最終決戦(2)

 月面に創った空間内に、装甲を纏い完全体となった阿修羅が沈黙している。足元には武装化したアクゥがいた。ここは巧の肉体の負荷を抑える為に地球の自然を再現している。

 水と土と風。空は青い。その景色を見てるだけで、無意識に溜まるストレスが緩和していく。

 今からここで北斗と会う。人質にされた娘と引き換えに阿修羅を渡すのだ。

 この機体を渡すことにより、沢山の人が死ぬ。


 失われる命と娘の命。


 天秤にかけるまでもない。

 悪魔に魂を売った。後悔はしない。してはいけない。

 すでに自分の手は血で汚れている。ここで立ち止まれば全てが無駄となる。

 この取引を成功させるカギはゴセイオンだ。

 北斗が娘を渡さず鬼神を奪う。それだけは回避しなければならない。

 そのためにジンに自らのナノマシンを渡した。これであの少年はいつでも人間に戻ることが出来る。そして巧の記憶にあるジンならば、必ずや同情する。


(利用させてもらうぞ黒鋼ジン 娘のために)


 

「……!……」

 空気が澱む。水が濁り空は紫色に染まる。歪む景色から現れるは憎き男。


「お待たせしました」

 待ち合わせの時間通りに北斗は現れる。娘の姿は見えない。

「娘は何処だ!」

 頭が痛い。目が眩む。爆発する負の感情で、体に変調をきたす。

「ここですよ」

 もう隠す必要の無い殺気をダイレクトにぶつけても顔色一つ変えず、懐から神名文字で書かれた複数の護符を取り出した。

 紫色の空にバラまくと円を描き、中央に門が出現する。

「っ…………」

 世界が涙で滲む。門が開き、少女がゆっくりと降りてくる。

「マシンダ」

 アクゥは全てを犠牲にしても、再会を望んだ娘の名を呼んだ。

「お、お父さん?」

 怯えた表情で、声質が違う父を見ている。

「マシンダさん、お父様の元へ。二度とあなた達の前に現れません」

 パァン。

 涙を浮かべ、北斗の頬を叩いた。

『アタシの北斗に何すんのよ!』

 音々が、綺麗に手入れされている緑色の髪に掴みかかる。

「娘に触るなッ!」

「音々さん、いけません。悪いのは私ですから」

 頭を深々と下げ非礼を詫びた。


 鬼神に乗り込む北斗は、抱き合う親子に一つ忠告する。

「早めに離れなさい。この世界は私が滅ぼします。ヨモツの名の元にね……ぬっ」

 突如、空間が歪みだす。北斗やアクゥの力ではない。

 第三者が外部から入り込もうとしてるのだ。

「……来ましたね。障害となるあなた達をまずは、虚無に帰しましょうか、ゴセイオン」



「阿修羅を返してもらいますわよ!」

 空間転移して来たのはゴセイオン。

 額から二本の長い角、五つの瞳が青に輝く。重量感あふれるマッシブな漆黒な体形に胸の中央は山吹色。太い腕と足には白銀の長い鉤爪が伸び、背中には真紅の四枚の猛禽類型の大きな翼がはためき、尻からは身長よりも長い蒼い尾が伸びていた。


「ふふふ、取り引きが終わるまで待っているとは、優しいですね」

 北斗は阿修羅を起動させる。自らの体とシンクロした機体の動作を確かめる様に、六本腕を動かす。

「さて準備運動も兼ねて死合いますか」


 ドンッ。

 土煙をあげて一瞬で距離を詰めてくる。

 速い。五つの瞳でもとらえきれない。

 気づくと目の前に阿修羅はいた。

「ひゅっ」

 六つの腕で繰り出されるは拳、掌底、手刀の同時攻撃。

 その素早い連打を捌ききれない。だがダメージは無い。

 玄武が元の姿に戻り、五姉妹が揃った。

 本来の力を取り戻したゴセイオンに致命傷を与えるには、パワーが足りない。

 瞳の色が黒くなる。青龍から玄武へ機体が引き継がれたのだ。

 亀の様にガードを固め体を丸めて、防御に徹し攻撃のタイミングを計っていた。


「なるほど。何故貴女方が今回の任務に選ばれたのか理解しました」

 三面の頭が一回転すると、機体の色が金から赤に変わる。

「ドラッ!」

 腰の入った重い拳の一撃をゴセイオンに放った。


「モードチェンジだと!」

 十字に固めガードした腕が痺れる。

「我らと同じ能力か……やっかいな」

 レッドモードになった阿修羅の攻撃に素早さはない。だが、その一撃一撃が重く防御の上からでもダメージが蓄積されていく。

「姉さん私がいく」

 瞳が銀色となり白虎が継ぐ。


「攻撃こそが最大の防御だッ!」

 拳を捌き腹部へ回し蹴り。

「!」

 足が下部の腕に掴まれた。

「マズい!」

 ググッと足首の関節が軋む。

 その力に抗う事はせず機体を阿修羅に預ける。

 浮き上がるゴセイオン。

「シュッ!」

 拘束されていない逆の足で、首を狙う。

 パァン。

 心地よく鳴る衝撃音。

「残念でしたね」

 阿修羅の上部の腕が、その足さえも掴まえた。

「私の腕は六本ですよ!」

 大地にゴセイオンを叩きつけ、中部の拳が鳩尾に決まった。

「やっと捕まえた。今度はこっちの番だ」

 瞳が山吹色に染まる。


「な、なんですと」 

 腹筋が拳を咥え逃がさない。

 麒麟は右掌を阿修羅の顔に当てた。

「どう? これなら絶対にかわせないでしょ、おじさん」

「まさか全てはこの為に」

 流れる汗がいやに冷たく感じる。 

「くらえッ! 今必殺のゴセイオン・ビームッッツ!」

「ぬっっっ!」

「……で、でない……」

 掌から光線が発射しない。

 ズキン。鳩尾が痛み出す。腹部から煙があがっていた。

 まさか阿修羅の攻撃なのか。 

「危機一髪……肝が冷えましたね。それでも何とか間に合いました」

 溶けた装甲から腕を引き抜く。拳には棘が生えていた。

「どうですか私の生死の味は? 確かにあなた達の身体は硬い。この技を外にかけても効かないでしょ。でもね、挿入して中に出してしまえば……ふふふ身体は正直ですね」

「キモいよ!」

 北斗が話に夢中になっている隙に、ゴセイオンは起き上がる。

 ピュッピュッ。

 生死を体内から排出し、修理用のナノマシンを腹部に放った。


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