第35話 最終決戦(1)

 地球から一つの光球が飛び立った。宇宙から地上を見張り続ける人工衛星の映像に、それが映る事もない。不可視のバリアの機能が働き捉えることが出来ないのだ。

 山吹色に輝く球体は、月に向かって動き出す。

 光の中心に鯨型の宇宙船が見えた。

 巨神形態の麒麟であった。

 その体内にはブリッジがあり、ジンと姉妹が乗っている。

「むっ」

 船内に麒麟の声が響いた。

「どうしましたか麒麟さん?」

「これを見てお姉達」

 艦橋のメインスクリーンに映し出されるは、月からこちらに向かって来る一体のヨモツ獣。

『はっはっはっはっ、邪魔はさせませんヨモツ獣と遊んでなさい』

 男の楽しそうな声を受信する。

「あの時の男性が、まさかヨモツの眷属だったとは、一生の不覚」

 白虎は、この声の主である人形を愛でる美しい青年、北神北斗を思い出していた。


「北斗ッ!」

 ジンの視界が怒りで、真っ赤に染まる。

 あれは夢の出来事だ。

 妹が殺されたのも姉が殺されたのも、それは全てアクゥが見せた幻なのに。

 魂の奥底から沸々と湧き上がるマグマが、奴を殺せと囁きかける。

「俺が奴らの相手する。お前達は月に」

「ひ、一人では危険です。兄さん! 私も一緒に」

「駄目だ。ゴセイオンでなければ鬼神を止められない……だろ?」

「で、でも……」

 言いかけて口を閉ざし、「うん」と頷いた。

「お気をつけて、兄さん」

 背伸びした朱雀の顔が近づき、頬に唇が触れる。

「えっ」

 ジンは意外そうな表情を浮かべ、目をパチクリする。人前では決してしない、恥ずかしがり屋の朱雀がこの様な行為をするとは。不意をつかれて、いつも以上に体が熱くなり顔が朱に染まった。

「えへへへへ二人共、真っ赤だよ」

 モニターにニヤニヤする麒麟が映り、ひゅーひゅーと冷やかす。

「もぅ麒麟ちゃん、お姉ちゃんはエッチだからいいの!」

 ぷしゃぁぁぁ。顔から湯気を吹き出し、ジンのシャツの裾を掴む。

「無事に帰って来て。じゃないと許さないんだから」

「あぁ、続きは帰ってからだ」

 ジンは朱雀を強く抱きしめた。

「行ってらっしゃい旦那様。敵は倒す。それが暁家の家訓です。わたくしの夫として相応しい活躍、期待していますわ」

「おうっ任せろ」

「パパ……」

「白虎大丈夫なのか」

「うん。私達は機械だからな。早く来ないと、ミロクと一緒にヨモツ倒してしまうぞ」


「ジン!」

 カタパルトに向かう途中、玄武に呼び止められる。

「どんな事情があろうとアクゥの行いは許されない。だが娘には非はない。彼女を救出後ヨモツを討つ」

「あぁ、頼んだぜ。相棒! 俺もすぐに合流する」

 ジンと玄武は拳をつきだし、重ね合わせた。


「コネクト・アームズ!」 

 武装すると、カタパルトから宇宙空間へダイブ。

 問題ない。自分の意思で自由に移動する事が出来る。

 イケるこれで奴と戦えると、待ち構える北斗を睨んだ。


『ほぅ』

 ジンの金色の狼装甲を見て、北斗は笑みを浮かべた。

『アルティメット・フォームと言ったところですかね』

「クライマックスが近いからな。お約束だろ」

『確かに。しかし勝つのは私達です』

 北斗の合図で、ヨモツ獣が臨戦態勢をとる。


「お兄ちゃん」

 麒麟の心配する声が聞こえた。


「大丈夫だ。俺は負けない」

 腕をクロスし、強く握りしめた拳を突き上げる。

「コネクト・ギガンテック!」

 螺旋状に回転する円柱に包まれていく。

「うおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

 巨神化したジンがヨモツ獣を押さえ込む。

「行けっ! 麒麟!」

「うん! イッちゃうぅぅよお兄ちゃん。麒麟イクぅッッ!」

 誤解を招きそうな桃色声をあげ、月に向かって船は舵をとった。


『ジンくんその姿は……』

 ツルッとしたフルフェイス型の頭部に四本の角。バイザーからはつり上がった赤い瞳が見える。筋肉質のボディーを黒い鎧が纏っていた。。

 色や細部に違いはあるものの、具現化したその姿はアクゥの巨神形態。

 それを見て北斗は悟った。

『アクゥくんのナノマシンですか。ラスボスを倒すために共闘する。王道で燃える展開嫌いじゃないです』

『しかし』と北斗は両手を広げる。

『まだ最終回には早すぎる。頼みましたよヨモツ獣』

 そう言うと北斗は消えた。


 ジンの前にいるヨモツ獣はエイに似ていた。ヒレを広げこちらに迫ってくる。

 この巨神の体で果たしてどのくらい動けるのか。

 今までは暁姉妹がサポートしてくれていた。肉体的にも精神的にも不安等無く、戦いに集中できた。

 一人。

 宇宙にただ一人。

 そう意識した瞬間、体がずしりと鉛の様に重くなる。

「!」

 鋭い刃化したヒレが目の前を通り過ぎた。

 危なかった。

 もう少しズレていたらと思うと、背筋に冷たいものが走る。

(びびってんじゃねぇぞ)

 馬波流の構えをとるが、手足が細かく震えていた。

 怖い。命のやりとりに初めて恐怖する。

 自分は、こんなにも弱かったか。

 どんなに強い相手にも立ち向かって行った。

 返り討ちにあっても何度も何度も。素手で勝てないなら武器を取り、それでも勝てないなら闇討ちをした。

 負ければそこで止まってしまう。演じているメッキが剥がれ弱虫の自分を知られてしまう。

 それでは、家族を守れない。


 強く拳を握る。

 ガンッ。全力で自らの顔面を殴った。

「気合い入れろッ! クソが!」

 だが震えは止まらない。

 体を捻り、再びこちらにエイが向かってくる。

 避けられない。上下左右。何処へ逃げればいいのかわからない。

 ならばと、両腕を広げた。

 激しい衝撃と浮遊感。

 ジンはエイを掴むと、そのまま一緒に空間を泳ぐ。

「これなら震えても関係ねぇッ!」


 何処に向かっているのか、月への軌道から大きく離れていく。

 周囲の景色が一変、岩石群に覆われる。

「ぐはっ!」

 小惑星に叩きつけられた。

 拘束を解かれたエイは浮遊物をスイスイと避け、一定以上の距離をとる。

「やっとエンジンかかってきたぜ」

 体に感じる。地の感触がジンを目覚めさせた。

 ゆらっ。

 しっかりと両足をつけ、両腕を頭上で構える。

「来い! 馬波流の技見せてやる」


「…………」

 エイの姿が見えない。

 逃げ出したか。

 違う。足元から伝わるこの振動。

「地下か!」

 大地を吹き飛ばし、現れる回転するエイ。

 足場を失うが、ジンはもう慌てない。

 胴体についている顔が、こちらを見て笑っていたからだ。

 プッツーン。

「見下すんじゃねぇぞ三下が!」

 シールド展開。

 それを全力で投げた。

「超デモン・ヨーヨッッッ!」

 勢いよく回転する縁から刃が飛び出し、胴体を真一文字に切断。

 飛んで来る頭部をジンは両手で叩き潰した。

「熊掌」

 馬波流の技がヨモツ獣にトドメさす。

「大勝利ッ!」

 拳をグッと突き上げた。

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