第34話 からくり童子(後)

『カエセ』

 一人が口を開いた。

『カエセ』『カエセ』『カエセ』

 また一人が口を開き、別の誰かが復唱する。


「返せ? それは誘拐した娘さんの事ですね」

 北斗は音々を懐にしまい込む。

「フフフ、それがアナタの本心。わかってます。憎いですよね。それでいい。恨み妬み嫉妬憎しみ、負の感情は人を強くする」

 ゆらりと、北斗は構えをとる。

 それはジンと同じ馬波流の構えであった。

「見よう見まねですが、何とかなるでしょ。さぁ、かかってきなさい」

 にいっっと、口をブイの字にして笑った。


 北斗が最初に破壊したのが、獣化するも人の部分が残ってる少年だった。

 目を潰し鼻を折り耳を千切った。

 次に全身を獣毛で覆った少女が、鉤爪で襲いかかって来る。

 手首の裏側を掴み捻り、重心がかかる利き足を蹴り上げた。

 半回転した少女の首に膝を当て大地で骨を叩き折る。

 

 シュッ。

 風切り音が耳元で鳴り、頬から血が流れた。

 ハリネズミ型ジャンク獣のロングレンジ攻撃。背中に生える針を弾丸の様にして発射したのだ。

 北斗は無意識に笑みを浮かべると、少女を盾にして走り出す。

 連射。次から次へと飛んでくる針を盾で防ぎ射程距離を縮める。

「もう終わりですか!」

 少女をぶつけ、撃ち尽くし剥き出しになった背中の皮膚に針を突き刺した。

 

 視界が不意に暗くなる。

 巨大なハンマー化した腕を振り落とす獣の姿が見えた。

「フッッ!」

 口の中に仕込んでいた針を吹く。

 突き刺さり、片目を潰された獣は遠近感がつかめない。ハンマーはハリネズミの上半身を吹き飛ばし、大地に食い込んだ。

「けひゃっ!」

 北斗は柄に軸足を乗せ飛翔。

 獣の首に足を絡め、気管を潰す。

「これで四体……ッッ!?」

 一瞬の気の緩みが、空から滑空する翼竜型の進行を許してしまう。北斗の体は拘束され、大空高く飛ぶ。

「不覚をとりました……あれは?」

 地上に残された獣達が一カ所に集まっていく。

 合体融合し一つとなったジャンク獣は、巨大な雛となる。

『あぎぎぎぃぃぃ!』

「私は雛鳥の餌ですか」

 ひゅっ。

 鋭い呼気と共に足を蹴り上げる。つま先から刃が飛び出し、体を掴んでいる腕に突き刺す。

「デッドオアライブ」

 白濁色の酸が腕を溶かし、北斗は地上へと落ちていく。

 雛は上下に大きく口を開くと北斗を飲み込んだ。

『ひぎっ』

 バタバタと身体を揺らし暴れ、ブクブクと口から泡を吹く。

 ポンッポンッ。

 泡が次々とはじけ、白濁した液が体を汚した。

『ひぎゃあぁぁぁ』

 溶けていく。白い煙を漂わせ、ドロリドロドロリと蝋燭の様に雛は溶けていく。

 沈黙。

 蝋の中心に立っていたのは、シャボン玉を纏った北斗だった。

「楽しい死合でしたね」

 紅に染まる唇の口角をあげて、鬼の形相で北斗は笑った。


 ザクッ。

 肉が斬られた音がする。

 目線を下げると、足元が血で汚れていた。

 ズボンの大腿部が、どす黒く濡れている。生地が真一文字に破れ、そこから血が流れていた。

「私とした事が、一匹残っていたのを忘れてました」

 地面に膝まづく。

『いやぁぁ北斗ぉぉ』

 その攻撃は翼竜が放ったカマイタチ。

 デッドオアライブでも気体は流石に溶かせない。そこに気づいた翼竜は、決して地上に近づかなかった。

「はっはっはっ、困りました」

 痛みで気を失ってもおかしくない状態で、呑気に笑っている。

『馬鹿ぁ馬鹿ぁ。逃げないと殺されちゃうよ』

「待ってるのですよ……正義のヒーローをね……来た!」


「ゴッド・ブーメラン!」

 三日月型の刀が夜空を飛ぶ。翼竜は空高く浮上し、その攻撃を回避する。


「君、大丈夫か……酷い怪我だ。今病院に」


 北斗の前に現れたのは、白い装甲を纏った少女。

 猫耳が付いたフルフェイスヘルメット。

 肉球が可愛いアームの先端には、三本の刀が生えている。

 ゴセイオンの三女、暁白虎であった。


 白虎の前に、血まみれの美しく怖い青年がいた。

 このような状況で無ければ、話しかけたりもしないだろう。

 青年の太ももから血が溢れている。

「病院の前に止血が先か」

 白虎は近づこうとすると、『アタシの北斗に触らないで』と止められる。

(えっ……この人……人格が……)

「君は?」

『嫁の音々よ。止血はあたしがするから、あの化け物を倒して』

「はっはっはっ、私は愛されてますね」

『だ、誰がアンタの事なんて。か、勘違いしないでよね』

「……うん。では音々殿、頼む。すぐに戻ってくるから」


「アクゥめ、やっかいな置き土産を残して」

 ぴょんぴょん。

 屋根から屋根に飛び移り、翼竜を追いかける。

 巨神化すれば問題なく空を走れるが、バリア無しでは街中は危険過ぎる。

(張るには距離が遠いか)

 ドクン。

 子宮から心音が伝わる。

(ミロク?)

 白虎はジンとの間に出来た愛しき子の名前を呼ぶ。

 体がふわりと浮き上がり、白虎は空を飛んだ。

「君の力か! 感謝する」

 翼竜との距離が一気に縮まる。

「よしっいける! コネクト・バリア!」

 半透明の結界が敵を内側に閉じ込めた。これでもう逃げる事は出来ない。

 白虎は右腕を天に向けて叫んだ。

「コネクト・ギガンティック!」

 白銀色の光柱が体を包み、巨神形態へ姿を変える。

 銀色の装甲を纏う虎。四肢は太くそれぞれに三本の爪が生えている。尻から伸びる長い尾は蛇腹で出来た刀であった。


 邪魔をするなと、翼竜は叫び翼を広げる。大気を切り裂き放たれるは不可視の鎌。その刃が白虎の首を狙う。

 ギィィィンン。高音が響く。鎌は見えないナニカに弾かれる。


「君も得意なんだね。私もだよ」

 ヒュンヒュンヒュンと、蛇腹の尾が回転し同じ様に大気を切り裂いていた。

「次はこちらからいく」

 装甲解放。無数の小刀を大空へ撃ち出す。弧を描き翼竜に降り注ぐ。

 上がれば小刀の雨が突き刺さり、下がれば白虎の牙が待つ。

「逃がさない」

 空を蹴り加速。斜めに降下する敵を追う。

「喰らえ! 蛇王の牙を!」

 鞭化した蛇腹刀がしなり、頭部を切り裂く。


『たいした物ですね』


 欠損している腕の傷口から、男の声が聞こえた。

「さっきの……」

 モコモコ。

 翼竜の体が膨れ上がり、首と腕の傷口から白濁した液が溢れていく。

「酸?」

 煙をあげて体は溶け落ちていった。


 戦いを終えて、現場に戻るとそこには彼はいない。

「何者だったんだ……一体」

 美しく怖い。そしてもの悲しい。

 強烈な印象だけを残し北斗は去っていた。




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