最終章 ゴセイオン

第33話 からくり童子(前)

 検査を兼ねて一緒にと、玄武から風呂へ誘われてからジンは、目のやりばに困っていた。

 ぼいん。揺れる。ぼいん。揺れる。ぼいいいんと、天上天下唯我独胸と揺れ動く。

「どうしたの? さっきから目泳いでて」

 クスッと笑みを浮かべ理由知ってるのに、優しい口調で聞いてくる。

「い、いや何でもない……元の姿にまだ慣れてなくて」

「ふ~ん、おいで。体洗うから」

 荒ぶる股間の問題で湯船から出られないでいると、玄武に手招きされる。

「じ、自分で洗うって」

「もぅ、今更恥ずかしがらないで、これは検査も兼ねてるんだゾ」

「……お前、楽しんでるだろ」

「カカカカカカ、萌えるだろ? ……こらっお姉ちゃんのところに来ないとダメだゾ」

 観念してジンは前屈みの体勢で、玄武の前に腰掛けた。


 玄武はボディーソープを泡立てると、掌で優しく丁寧にジンの背中を洗いだす。

「どうだジン?」

「気持ちいいよ」

「じゃなくて、体内にあるアクゥのナノマシンの事だ」

「調べたろ?」

 頷く玄武。

「今のそれは、完全にお主の支配下にある」

「だからお前を元に戻したんだよ」

「ても怖くないのか。敵のナノマシンだぞ」

「えっ、だってよ。お前らが調べたんだ。安心だ」

「……ジン……」

 むにょん。背中におっぱいが当たった。

「大きいのと小さいのどっちが好きなの?」

 むにょんむにょん。硬くなった乳首が泡を転がり、刺激を与える。

「うっ」

 耳元で洩れる吐息に、ジンの呼吸も乱れだす。

 痛いほど隆起する股間が泡に包まれた。

「ねぇ……どっち?」

 くちゅくちゅくちゅ。玄武の指が輪をつくり、先端を中心に綺麗に洗われていく。

「っ……それ以上の刺激は……」

「お兄ちゃんん、あたしも入れてぇぇ」

 ばーん。扉を開けて、谷間の無い胸と無毛の股間を絆創膏で隠した麒麟が乱入。

「……だめっ」

 どぴゅっと勢いよくドロドロした泡が麒麟にかかる。

「あぁんっ顔にかかったぁ」

 白濁した泡を指ですくう。

「だめなの?」

 麒麟は残念そうにうつむく。

「いやそのダメじゃなくて」

「カカカ、麒麟もおいで」

「うん、お兄ちゃんん子作りしよぉぉ」

 びよよ~ん。麒麟は笑顔でダイブした。


 深夜、ジンは再びあの悪夢を見ていた。


 ヨモツ獣が空から落ちてきて、ジンの目の前で彼女は襲われる。

 同じシチュエーションと同じ光景。

 一つだけ違うのは今回は、彼女は可憐だという事だ。


「うわぁぁあぁ!」

 自分の叫び声で目を覚ます。

「お、お兄ちゃん大丈夫」

 生まれたままの姿をした麒麟が、心配そうに顔を覗き込む。

「悪い。寝落ちしてた」

(……巧……)

 ジンの脳裏に浮かぶは、デモンサーベルで貫かれた時に言った彼のセリフ。


『娘を救いたい』


 そして、証拠だと言って植えつけられたナノマシンが見せる悪夢。それは、アクゥの記憶なのか……。

 夢の中で過去を追体験してる?

 あれほど生に執着し、分身を残そうとしてるのも娘の為?

 頭の中は疑問符だらけで確証はないが、それでもジンはずるいなと思った。


(あんな光景を見せられたら、同情してしまうだろうが巧) 


「激しく動きすぎたかな。えへへへ」

 険しい顔をするジンに気を使い、麒麟はおどけ胸に顔をうずめた。

「どくんどくんどくんって、心臓の音凄いよ。怖い夢でも見たの?」

「あぁ……大切な人達がヨモツに奪われるんだ。いつも何も出来ない。例え幻だとしても、お前らを守れないのがつらい」

 ちゅっ。

 唇と唇が触れる。

「んんッ……はぁっ……ただの夢だよ、お兄ちゃん」

 麒麟の舌が口内を犯す。

「んぐっ……はぁはぁはぁはぁ、本当の妹だったら良かったよ。そしたらずっと一緒にいれたのに」

 唇からツゥッと体液が垂れて、糸を引く。

 全ての決着がつけば、五人は元の世界に戻る。それを麒麟は言っているのだ。

「本当の妹は、こんな事しないけどな」

「いじわる」

 別れの辛さを痛い程わかっている。

 離れたくないと泣く麒麟を強く抱きしめ、体を重ねた。

 

 麒麟は体を大きく反らして、今夜何度目かの絶頂をむかえると、ジンの胸に倒れ込み瞳を閉じた。

「……ねぇお兄ちゃん……」

「んっ?」

 麒麟の頭を撫でる。

「本当にあたし達と月に行くの?」

「そこに巧がいるならな」

「むー。それは間違いないよ。アイツ言ったんだ『また洗脳されたいか』って。あたしは月で洗脳されたの。アクゥ、クレータにナノマシンを仕込んでたんだ」

「ならその借りも返さないとな」

「うん。でも体どうなの?」

「あぁ。快調だぜ。完全に支配してる」

「いししし、ここもまだまだ快調だねっ」

 ぬるり。股間が体温に包まれる。

「お兄ちゃん、好き大好き、愛してる」

 ゆっくりとねっとりと、再び腰が動き出す。


 鳴神市は神嶋市を含む一帯の市町村では、随一の都会だった。休日になると買い物客がひっきりなしに訪れる。


 若者達に人気の店が並ぶ通りに、一人の美しい青年がいた。

 黒い服に白い肌。唇は天然の紅に染まる。よく手入れされた緩く波打つ長い黒髪が風で揺れ動く。

 

 ヨモツの眷属、北神北斗がそこにいた。


 北斗はネットで紹介された有名スイーツ店の外で、困った表情を浮かべ立っていた。

 行き交う女性、店から出てくる少女達、乙女全てが頬を染めて、「あぁぁ~んん」と呟き去っていく。


「あの~どうしましたか?」

 目がハートマークの一人の女性が、勇気を振り絞って北斗に話しかけてくる。

「美しいお嬢さん、ここはお人形さんのお店では?」

「(はぁん素敵)いえ、オープンからずっとこのお店ですよ。こことっても雰囲気いいし美味しいです。よければ一緒に……」


『ちょっと、この泥棒猫、あたしの北斗に手を出さないでよ』


「はっはっはっはっ音々さん。ヤキモチかい」


(えっ何?)


『誰がヤキモチよ! 勘違いしないで、バカぁぁぁ』

「ほらほら怒らない。可愛い顔が台無しで・す・よ。お嬢さんが驚いちゃってます」

『か、可愛いって……ば、ばっかじゃないのもぅ』


「えっ……す、すいません失礼しました(ひいっふれちゃいけない人かぁ)」

 女性は慌てて逃げていく。

 何故なら北斗はフェルト製のお姫様姿のぬいぐるみに話しかけ、一人で会話してたからだ。


「やれやれ、この世界でも会えるかなと期待したのですが、残念です」


 北斗は自分の世界であった奇妙な老人を思い出していた。

 音々の衣装を探しに来たドール店(ここ)で知り合った人形好きの古武術使いの達人、馬波大全を。


『北斗? どしたのぼんやりして』

「いえ、馬波先生、元気かなと」

『あの妖怪爺、あたしに色目使って気持ち悪い』

「はっはっはっはっ、音々さんは魅力的なレディですからね」

 一人で人形と楽しそうに会話する北斗はとても目立つが、何故か悲しそうで色めき立つ乙女達は静かに去っていく。


「う~ん空き地ですか」

 次に北斗が向かったのは周囲に工場が立ち並ぶ、雑草が生い茂る更地だった。

『なに北斗、日が暮れたのに、こんな所へ連れて来て。ま、まさかあたしにエッチな事するつもりでしょ。エロ同人誌みたいにエロ同人誌みたいに』

「はっはっはっはっ、違いますよ音々さん。ここは北斗の世界だと、私の生家があったのですよ」

『えっ……そうなんだ』

「いやはや、先生もいない。家も存在しない、ならこの世界を滅ぼし……おやっ?」

 どこから集まって来たのか、少年少女達が北斗を取り囲む。


「何のご用ですかね?」

『北斗こいつらアクゥの……』

 首筋にアクゥのシールが見える。

「ほぅ……アクゥくんの眷属(ジャンク獣)が私に何の様ですか」

 表情に鬼が浮かぶ。



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