第32話 悪夢(終)

 麒麟は異空間を力強く泳いでいた。五姉妹の中で彼女は、多次元世界移動に特化して創られていた。

 その為、他姉妹がエネルギーロスに悩みながら渡る世界の海を、苦する事無く泳ぐ事が出来る。

 今、麒麟が向かうは鬼神阿修羅の元であった。


「むっ」

 ミミズに似た生命体が襲いかかってくる。

「ワームか」

 次元の狭間に蠢く掃除屋は、麒麟をゴミ(食料)と認識。捕食活動を開始。襲いかかって来る。

「もぅ急いでるのにぃ。ゴッド・サンダッッ!」

 ワームは稲光に一瞬怯むが、恐怖よりも食の本能が強い。口を開き、自分よりも大きい麒麟を一口で飲み込む。

「ゴッド・サンダーブレイカッッ!」

 体内から雷が広がり捕食者を吹き飛ばした。

「えへへ見たかこれが正義の光だ……っ?」


『贄贄贄贄』

 続いてニエと鳴く上半身が人で下半身が魚、人魚の姿をした異形なる化け物、ヨモツ獣が現れた。

「次から次へともぅ」

 裂けた口、瞳がないつり上がった目。醜い顔。その眉間に半透明の美しい青年の姿が浮いていた。北神北斗である。

『アクゥくんの邪魔は、させませんよ。可愛いお嬢さん』

「うわっ」

 ゾッと寒気がして装甲に鳥肌が立つ。

「未成年に色目使わないでよ、気持ち悪いな。おじさん、夢見ないで現実見よう!」

『ハッハッハッ、正直なお嬢さんだ。憎しみは愛情の裏返し。私に惚れてはいけませよレディ』

 キラキラキラキラ。真紅の薔薇が舞い、美しい七色の虹が空を覆う。

「ひぃぃぃぃ、お兄ちゃんんんん助けてぇぇぇ」

 え~んと、ぐるぐる目を回す。


「チェンジッ! バトルモード!」

 鯨型だった巨神が人型に近い形へ変形する。

「さっさとコイツを倒し、アタシは先に進む」

 ヨモツ獣の頭上高く飛ぶ。

「ハァァァァァ! くらえッ神の一撃をッ! ゴッド・サンダー!」

 掌を広げ右腕を突き上げる。雷鳴轟き、五つの雷が獣に落ちた。

「やった!」

 漂う黒煙内部で、拍手の音が鳴る。

『流石です。連合軍最強チームと言われるだけありますね』

「き、効いてないの?」

 煙がはれると無傷のヨモツ獣と、北斗が立っていた。

『ビーストを倒すには、まだまだですね。さぁ次はこちらの番ですよ』

 その一声で獣は泳ぎだす。

『贄ッ!』

「速いっ!」

 迫り来る獣から距離を取る為に、麒麟は加速しようとするが無数のシャボン玉に阻まれる。

「何これ?」

 ぽんっ。体に触れた瞬間、玉が破裂。

 どろり。ゲル状の白濁した液体が付着する。

「熱いッ」

 装甲が溶けていく。

「硫酸?」

 気づいた時には手遅れ。

 ぼんぼんぼん。一斉に破裂。ドロドロドロドロと白濁した雨が、麒麟に降り注ぐ。

『生死を賭けろ(デッドオアライブ)とでも名付けますかね』

 ジュウジュウジュウ。濃厚の生死で跡形もなく機体は消滅した。

『死はこの宇宙に生まれた以上、平等に訪れます。黄泉の世界で待ってて下さい。すぐに皆さん行きますから』


「誰がイクもんかッッ! 下手くそッッ!」


 ボディースーツ、少女姿の麒麟がハンマーを北斗に振り落とす。

「グラビディ・ハンマーァァァァブレイクッッッッ!」

 ボロボロボロボロ。泥化したヨモツ獣が崩れていく。

「見たかこれが正義の一撃だ!」


 パチパチパチパチパチパチ。

 拍手が空間内で響く。

『なる程。生死が溶かしたのは巨神装甲だったと』

「……効いてない?」

 空間には半透明の北斗が浮いている。

『いいえ、凄まじい技でした。流石、荒神の獣王ゴセイオンです。この場に私がいれば是非、死合ってみたかった』

「幻か……ズルい」

『次にもし生身で会う事が出来れば、決着をつけましょうゴセイオン』

 にいいいっ。口をVの字の形にして笑い、北斗は消えた。

「うぅ気持ち悪いおじさんだったな、変なモノかけられるし」

 麒麟は嫌悪感と巨神装甲を溶かされた感触を思い出して、震えながら自らの体を抱きしめる。


(お兄ちゃんを助けて。一緒にお風呂入ろ。体洗いっこして既成事実つくるんだ。えへへへへ)

「あん駄目よ、お兄ちゃんん。そこは出すところで入れるとこじゃ。それに義理とはいえアタシは妹。えっ、愛があれば実妹だって関係ない? あ~んそれなら実妹になって禁断の果実をぉぉ」

 そんな幸せを妄想するだけで、麒麟の体は熱くなり元気になる。

 くちゅ。

 人差し指と中指が透明な液体で粘つく。

「んっっ……あんってダメ、今はそれところじゃない」

(行かないと。妄想じゃなく、ホントに抱かれて勇気をもらいたかったよ、お兄ちゃん)

 体の震えは止まった。

(お兄ちゃんの為なら、アタシは何でも出来る。例えそれがお姉達を悲しませる事になったとしても)

 再び巨神形態になると次元の海を泳ぎだした。


「意外な客が来たな。いや予想通りの来訪者か」

 巧は麒麟を迎え入れた。

 その背後には阿修羅が沈黙している。

「お兄ちゃんを元に戻して。対価はアタシの体」

「……」

 スッと瞳が細くなる。

「好きにしていいよアタシを。欲望のままに犯してもいいし、バラバラに解体しても構わない」

「その価値が自分にはあると?」

「この前アタシの体を散々調べて、もう知ってるんでしょ?」

「暁姉妹はクローン」

「うん、アタシ達は同じ生体パーツで出来ている。だから青龍姉がいなくても、鬼神のコアにアクセス出来る」

「一つ聞きたい。何故、洗脳中にそれを言わなかった?」

「罠かと思ってる? 転生してから随分と慎重になったね」

「……」

「そんなの決まってるでしょ。最後の抵抗ってやつだよ、アクゥ!」

「気に入ったぞ麒麟。契約成立だ」


「……」

 意識を取り戻した麒麟は、ベッドに寝かされていた。

「……生きてる……」

 ジワッと涙で視界が潤む。

 エンジン音が地底湖から聞こえた。鬼神の起動に成功したか、複雑な気持ちだがこれでジンは元に戻る筈だ。


「アクゥ!」

 地底湖に行くと、巧が阿修羅のコクピットに手をかけていた。

「麒麟、世話をかけた。これでやっと僕は……」

「お兄ちゃんは?」

 巧は頷く。

「ギフトを送った。家に帰って確認するといい」

「ねぇ、阿修羅をヨモツに渡してそれでいいの? 鬼神一体で力の無い世界は、あっという間に滅びるよ。アンタも連合軍にいたんでしょ?」

「……煩い。正義で救えない命もある。また洗脳されたくなければ去れ」

「!」

 巧の目が、ある事を訴えていた。それに気づいた麒麟は会話をやめて、飛び立つ鬼神を見送った。


「はあはあはあ」

 元の世界に戻ってきた麒麟は、大急ぎで店の扉を開けた。

「麒麟、ジンなら部屋だぞ」

「ありがと可憐姉!」

 麒麟は営業の準備してる可憐に手を降ると、階段を駆け上がった。

 ぼいん。ぼよよ~んぼよよ~ん。

 豊満過ぎるおっぱいにぶつかり、谷間に顔が埋まる。

「ご、ごめん青龍姉」

 もみもみ。

「何かしら? 麒麟さん」

 ジンの部屋から青龍が出てくる。

「あれ? ならこのボインは」

 もみもみ。

 顔をあげる。

「カカカ、我のだ」

「げ、玄武姉! えっ、なんで元の姿に」

 もみもみもみもみ。

「揉むの満足したか? 我は姉様と店の手伝いに行く。ジンが待ってるから、聞くといい」

「うん!」

 勢いよく扉を開ける。


「か、勘違いしないでね、別に私は兄さんなんて……はうっ」

 真っ赤な顔でジンに抱きついていた朱雀と、目が合った。

「はうううっ、き、麒麟ちゃん。ち、違うの」

 ジンの首筋には、真新しいキスマーク。

「ふ~んお邪魔でしたか。朱雀姉エッチ」

「ち、違うもん。エッチじゃないもん。はううっ」

 ベッドからずり落ちそうになる朱雀を、ジンは笑顔で受けとめる。

「おかえり麒麟。助けてくれてありがな」

「ううっ」

 ボロボロボロボロ、涙が溢れてくる。

「た、ただいま帰りました。お兄ちゃん!」

 涙で汚れて、ぐちゃぐちゃの顔を笑顔に変えて、麒麟はジンの胸に飛び込んだ。





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