第31話 悪夢(3)


「ジン、どこだ!」

 姿が見えない。

 最悪の結末が頭によぎる。部屋の窓が大きく開かれていた。

 布団に触れるとまだ暖かい。そう遠くには行ってない筈だ。


「姉さん」


 別室で休んでいた白虎が声をかけてきた。

「ジンは? 姉様達は?」

「……ジン殿を追っている」

(姉様……)

 青龍は仕事に私情をはさまない。

 アクゥ化したジンを殺す。

 自分はどう行動するか、答えは最初から決まっていた。

「私も行く。青龍姉さんを止めないと」

 白虎も同じ気持ちなのだろう。しかし玄武は首を振る。

「腹の子に障る。お主はここで帰りを待て。可憐の側にいてやれ」

「……わかった……パパを頼むよ、玄武姉さん」


 朱雀は青龍と共にジンの後を追っていた。そう遠くに行ってない筈、センサーを最大にすれば必ず見つかる。

 玄武がナノマシン破壊に失敗した。ジンは、かつての自分達と同じく、アクゥの眷属になってしまった。

 出なければ、逃げだしたりしない。

 そしてそれは、青龍がジンを殺す事を意味している。


 キィィィン。

 警報音が鳴る。

 屋根から屋根に飛び移る、赤い短髪の少年。

(兄さん!)

「見つけましたわ、旦那様!」

 青龍は街一帯にバリアを張った。


「よぉっ、朱雀、青龍。怖い顔してせっかくの可愛い顔が台無しだぜ」

 ジンは立ち止まると、親しき者しか見せない笑顔と軽口をたたく。

「か、可愛い」

 カッと身体が熱くなり頬を赤らめた。

「朱雀さん!」

 姉にたしなめられ、気持ちを引き締める。

「ごめん青龍、お前は美人って言葉の方が似合うか」

 にかっ。白い歯を見せて年相応に笑う。

「んまぁ」

 口元に手を当て、朱雀同様に真っ赤になる。


「に、兄さんなの? それともアナタは……」

「俺は俺だよ」

 目が赤く光る。

「おどきなさい、朱雀さん。眷属となったアナタは敵です」

「辛いよな青龍、本心を殺して。巧の野郎、ジャンク獣ではなく自分をもう一体創り出しやがった。俺はアクゥだ」

「そ、そんな……兄さんは死んだの……」

「そう見えるか?」

 首を激しく振り全力で否定する。

「要するに最終勧告って事ですわね」

「あぁ、俺を元に戻したければ、鬼神をなおせ、だとよ」

「わたくしの答えわかるでしょ? 旦那様」

「勿論。そういう所好きだぜ」

 ジンは両腕を大きく広げる。

「……アナタの胸に飛び込む事はできません。でも最後に気持ちが聞けて嬉しかったですわ」

 氷で創られた銃がグルリとジンを囲んだ。

「お逝きなさい。三途の川で会いましょう!」

 躊躇無く引き金を引いた。

 しかし弾丸は当たらない。炎が一つ残らず蒸発させたのだ。

「朱雀さん、あなたならそうすると、わかってました」

 その声質に怒気はない。むしろ安堵感が含まれている様に想えた。

「はうぅ、私はもう悩まない。兄さんは私が守る」

「ありがとよ、朱雀。それに改めてすまない青龍」

 そう言ってジンは朱雀を下がらせた。

「さぁ殺るか、生死をかけたタイマンを」

「夜のタイマンなら良かったのに。旦那様となら、永遠にできますわ」

 クスッと青龍は淫靡な笑みを見せ、朱雀の前で二人は殴り合いを始めた。


「どうした青龍。武装しないのか、らしくねぇ」


 確かにそうだ。自分の知っている姉は冷酷非情。例え血を分けた肉親だろうと関係ない。それは麒麟との戦いを見ても明らかだった。

 主だからか。それもない。なら答えは只一つ。

 待っているのだ。最後の希望を。

(うん。私も信じてる)

「俺は本気で行くぞ!」

 少し離れた位置に移動すると、腕をクロスする。

「コネクト・アームズ!」

 ジンの体内に蔓延るアクゥのナノマシンが活性化。

「ぐうっっっっ!」

 苦痛に顔を歪める。

 玄武のナノマシンと反発しながら、黒光りする狼型の鎧を身にまとう。

 重なりあい毛を表現した装甲の先端は尖っている。更に肩、肘、膝には角が伸びていた。


「究極の光」

 朱雀は思わず、そう呟く。

 キラキラと輝いて綺麗だが、その光は儚く悲しみに満ちていると感じた。


「デモンサーベル」

 腹部の中央から歪な剣を引き抜くと、青龍に斬りかかる。

 たんったんったんっ。

 軽いステップで華麗に刃を交わしていく。

「うふっ、どうしました? 当たらなければ意味ありませんわ」

 手から氷柱を撃ち出す。

 足を止めたジンは剣で、それを受け止めた。

「くっ」

 カチカチカチカチ。刃から氷が広がっていく。

 いけない。このままでは肉体も。

 ジンもそれはわかっていた。

 柄から手を離し回避。追撃する氷の顎もギリギリ避ける。

(さ、最後の希望待たないのか、お姉ちゃん)

 冷や汗をかきつつ、朱雀は慌てて炎の羽を発射する。氷の攻撃を全て無効化した。

「やりますわね。流石はわたくしの妹です」

 ギロリ。睨みつけてくる。

(はうぅ怖い)


「一足遅かったか」

 玄武が近づいてくる。

「お姉ちゃん……」

 聞かなくてもわかってた、玄武とジンは強い絆で結ばれている。姉はこちら側だ。

「麒麟を信じよう。我らはジンがヤバくなったら乱入するまでだ。なぁに二人がかりなら、姉様を抑えられる多分」

 自信なさそうに語り、たらりと額から冷や汗が流れていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます