第30話 悪夢(2)

「ジン、非常事態だ。すまぬな」

 ベッドの上でうなされているジンの隣で、玄武は全裸となった。

 実戦で身につけた無駄のない筋肉。引き締まった体。それでも女性特有の柔らかさを忘れていない。

 そして少女の姿となり、小さくなった乳房の美しさは変わらなかった。

 布団に入り込む。

「これはお主の命を救う為だ」

 チュッ。軽く唇を重ねる。

「姉様の手で搾取されたばかりなのにもう、こんなに……」

 パンパンに腫れ上がるテントは、今にも爆発しそうだ。脈打つ体温をその手に感じ玄武の呼吸は速くなる。

「んんっ」

 もれる吐息。逆の手は、濡れそぼる自らの茂みを掻き分け小石を探る。くりくりくりくりと、指で摘まみ転がす。

「はぁはぁはぁジン、ジン、イクっ。今から行くから」

 布団の中に、充満する華の蜜の様な甘い匂い。準備は出来た。ここで躊躇すればジンがもたない。果ててしまう前に、終わらさなければ。

 ぬるりと、下腹部に跨がり叫んだ。

「コネクト・ジン・インサート!」

 粒子となり体内へと消えていく。

(脳だ、海馬が異常な反応を示している。奴はそこにいる)


「ここは……ジンの夢の中か……」

 街がある。見覚えがある建造物。ここは神嶋市を再現してるのか。


「美亜を返せ」


 ジンの怒声が聞こえた。

 泥細工の異形なる獣が、美亜と呼ばれた麒麟を咥えていた。その足元には美しい男性がいる。

「気持ち悪い」

 ぞくりと背中に悪寒が走った。確かに美しいが、ナメクジや毒蛇を見てる様な生理的嫌悪感の方が強かった。

「ジン」

 愛しき少年の名を呼ぶ。

「玄武、美亜を助ける力を貸せ」

(そういう設定か……あれはアクゥのナノマシンが見せている悪夢。打ち払えばジンはきっと助かる)

「コネクト・ギガンテック!」

 デュワァァァ。

 光の柱から巨神玄武が出現。獣に飛び蹴りを放つ。

「玄武! 美亜がいるんだぞ。俺がやる」

「ジ、ジン……」

(これは夢なのだぞ)

「おやおや、抵抗する気ですか。娘さん殺しますよ」

 この男は何だ。アクゥとの関係性は。何故この夢に出てくる。わからない。

わかるのは、ジンが男に向ける、怒り。殺意。負の感情が本物と云う事だ。

「くそっ」

 ジンは構えをといた。

(駄目だ。このナノマシンを排除せねばお主は)

「いい子です。私はアナタと争う為に、来たのではありません」

「戯れ言を! ジンやるぞ」

「無理だ……夢だって妹を見殺しにできねぇ」

「ふふふ、お願いがあります。ア…………にしか出来ない事です」

 ザザザザザッ。突如ノイズが走り世界が歪んだ。

「!」

 玄武は見た。神嶋市の景色と、美亜の姿が一瞬変わった事に。

「ジンすまぬ!」

 機体のコントロール全てを取り戻した玄武は、ヨモツ獣を打ち抜いた。


「見よ。あれが悪夢の正体だ」

 そこにいたのは、巨神形態のアクゥだった。

「流石だ玄武」

 金色の仏に似た姿でニタリと笑う。

「ジンの体をも奪う気か」

「僕は生きなければならない。どんな手段でもな」

「幻を見せてか!」

 アクゥの頭部めがけて、蹴りを放つ。

「幻? ……あとでジンに聞くといい」

 盾に防がれる。

「僕を倒してからなッ!」

 目から光線が発射。玄武は一回転、後方へ飛ぶ。

「……アクゥ……」

 ジンは呟き、惚けている。

 彼らしくないが、こんな状況なら仕方ない。玄武は気持ちを切り替えて、目の前の敵に立ち向かった。

 

 暁姉妹とアクゥは宇宙の調和を守る組織、銀河連合に所属している。異なる世界、惑星の人々が大勢働いているので、玄武はアクゥを知らなかった。

 ゴセイオンチームが知ったのは、鬼神の管理を任せれていた彼が最新兵器、阿修羅を盗み逃亡した後だ。

「何て愚かなの」と、青龍が呆れてたのを玄武は覚えてる。


(この世界に混沌を招き入れたのは、我らの弱さだ。今度こそ決着をつける!)


 アクゥとの距離を一気に詰めた。

「!」

 回転する盾が飛んでくる。屈んで躱し急所を狙うが、見えない力で弾かれる。

「らぁッ!」

 連打。それでも拳は手前で弾かれる。

「この不可視の壁は絶対に破れない」

「戯れ言をッ!」

 大きく拳を振り上げる。

 ガンッ。激しい激突音、装甲が軋む。拳はまだ構えたままだ。

「うぐっっっ!」

 悲鳴をあげたのは、玄武だ。

 盾。先ほど躱した回転する盾が軌道を変えて、死角からぶつかってきたのだ。

「そして、この盾は絶対に躱せない……なにっ?」

 尻から伸びる太い尾がガードし防いでいた。

「玄武の名は伊達じゃないッ!」

 にいっ。笑う。拳が壁に阻まれて圧倒的な不利な状況で、それでも玄武は笑う。

「らぁぁぁっ!」

 背面装甲から伸びた無数の蛇が、盾に牙を突き立てる。

「盾が破壊されるのをその内側で黙って見ておれ、引きこもり」

 ジュウジュウジュウ。黒い煙と腐った匂いが夢の中を漂う。牙から分泌した毒が盾を腐らせていく。

「こ、こんな技、僕は知らない」

「ジャンク獣は元人間。彼らを相手に使えるか」

 玄武の顔に影が落ちる。

「らぁッ!」

 ブンッ。蛇は鎌首を大きくしならせ、盾を壁にぶつけた。

「絶対破れない壁と、絶対躱せない盾。さてどうなるかのぉ?」

 カカカカカと口元を歪めて笑う。

「……計算外だ……」

 砕ける。不可視の壁と毒に汚染された盾が砕けちる。


「覚悟はいいか、アクゥ。貴様を倒しジンを救う」

「ハハハハハハ、実に前向きだな玄武。先ほどからアイツは静かだが?」

 慌てて子宮にいるジンに意識を向ける。

 彼はシートに腰掛けて瞳を閉じ、うなだれていた。

「ジンッ!」

 呼びかけるが反応がない。まさか現実世界で何かあったのか。分身である触手を送ろうとした時であった。

 本体である機体が浮いた。

「色恋に溺れたな、正義の味方失格だ」

 首が掴まれ、足場を失う。

「しまっ……た」

「僕の勝ちだ!」

 頭部が、光線で吹き飛んだ。

 消えていく意識。同時に深海から浮き上がる様な解放感。

 玄武は目を覚ました。

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