第27話 不協和音(4)

(さてどうすっかな)

 剣を構え向かってくるアクゥに、どうやって無手で戦えばいいのか。トマホークは床に突き刺さったままだ。その距離は遠い。


 幼い頃、腹違いの兄、一真がいる事を知った。両親は毎日喧嘩をし自分は姉に抱かれ只泣いていた。毎日神に祈っていた。

 これからもいい子でいるから、パパとママが喧嘩しませんように、と。

 しばらくして喧嘩はなくなった。

 一真が御門となり、ジンは黒鋼となったからだ。

 ジンは子供ながらに知った。

 真面目に生きてれば報われるは、嘘だと。そして知った。力が全てだと。強くなって自分の世界を変えた父親を殴りたい。

 そう思ってた矢先に出会ったのは、河辺で暮らしていたホームレスの老人。彼は自称、古武術馬波流の達人で、食料と引き換えに技を誰にでも教えていた。

 ジンはそこへ頻繁に通い、弟子となったのだ。


(助かるぜ師匠。あんたのおかげで俺は戦える)

 遠い国に旅立っていった馬波に感謝し、半身の体勢で構えた。

 指を軽く曲げ、膝を少し折る。かかとを浮かせ、待ち構える。

 馬波流の基本的な構えだ。これで相手の出方を見て臨機応変に対応する。



 アクゥはその構えを見て、懐かしく感じてしまった。つい先日まで、身近で見ていたのに。

 いや構えだけではない。

 ジン達と笑い楽しみ、同じ時間を共有してた幼き頃の記憶は色あせている。

 巧の身体をベースにした為の弊害が、そこにはあった。

 戦う相手の情報など必要ないのだ。だが、それを知りやりづらいとは思わない。自分には、やるべき事があるからだ。

(鬼神阿修羅をヨモツに渡す。それを邪魔する者は、全てデリートする)

 大きく踏み込むと、躊躇なく剣で、ジンに切りかかる。

 ビンッ。目に小石が当たった。ジンが蹴り上げた物であった。パイザーの上からだ。ダメージはないが、本能で瞳を閉じてしまう。

 懐に気配を感じた。

「ジンッ!」

 掌底が腹部に触れた。

「セイハッッッ!」

 ゼロインチ打撃。

 大地の気、竜脈を取り込み螺旋状に練り上げて、四肢から放つ。

 馬波流奥義青龍が放たれた。

「効くか!」

 剣の柄で殴ろうとした瞬間、体内で龍が暴れた。

「な……っ」

 ガクンと無意識に膝が折れ、気づくと大地を舐めていた。

 そんな馬鹿な有り得ない。装甲を通り抜け内面からダメージを与えるなんて、アクゥは混濁する意識を失わない様、必死でつなぎ止めている。


「その技、まさか馬波流ですか」

 北斗は欲しかった玩具を見つけて、楽しそうにはしゃぐ子供みたいに、真っ赤な唇で笑みを浮かべた。

「し、知ってるのか! 宇宙人が。馬波流すげぇーな」

「私は地球人ですよ。平行世界のね」

「あっ? 地球人が何故ヨモツに」

 北斗はその問いかけに答えない。

「ふふふ。それよりも、今のは玄武さんの技とのミックスですか?」

「アイツの技と馬波流、相性がいいからな」

 拳を北斗に向ける。

「続きするか? 色男」

「嬉しいですね。でも止めときます。アクゥくんに怒られてしまいますから」

「な、なに!」

 ヒュンッ。刃がジンの腹部を抉る。

「僕を無視するなよジンッ!」

 ヨロヨロとアクゥは立ち上がる。

「と言うことなので、私はギャラリーに徹しますよ」

 北斗は両腕を広げて肩をすくめた。



(麒麟ちゃん)

 ジンが体を張って作った時間だ。それを無駄にしてはいけない。幸いに北斗も二人の戦いに集中していて、こちらに気づく様子もない。

 急がないと、足は麒麟が眠るカプセルに向かうが、意識はジンに行ってしまう。


 自分達の為に、体を張り傷つく、同世代の男の子。

 自分達のせいで命を失い、それでも私達を家族と呼び大切にしてくれる優しいお兄ちゃん。

 あぁそうだ。私はジンくんが異性として好きなのだ。風邪ではなかったのだと、朱雀は本心に気づくと重い心が軽くなっていく。


「ぎゃあぁぁぁ」

 ジンの悲鳴が聞こえた。

 直ぐにでも足を止めて、駆けつけたかった。だが下唇を強く噛み締めそれをしなかった。

(私達には、それぞれの役割がある。信じてるからね。ジン兄さん)

 朱雀は麒麟の元へ急いだ。



「痛ぇぇぇぇっ」

 脇腹を押さえてジンは、のたうちまわる。

「……」

 アクゥは刃についた血の雫を眺めていた。

「このデモンサーベルは、貴様の装甲を貫く。この様になッ!」

 ザクッ。

 腕を突き刺す。

 ぶしゃぁぁぁぁ。

 血が吹き出して、メタリックシルバーの装甲を紅に染めた。

 ザクッザクッザクッ。四肢全てが斬られ、ジンの体は動くのを停止した。

「……ち、ちくしょお……」

 手足を熱した鉄の棒で焼かれてるみたいな感覚。だからまだ、だ。麻痺してるわけではない。痛覚を感じてる以上、まだ動かす事ができる。手足はここにある。まだ戦えるんだ。

 ザクッ。

 サーベルが装甲と融合している携帯に、刃を突き刺した。

「これがお前の命綱だ」

「ぐっ……っっ」

 ドロドロと装甲は溶け出していく。

「くそが!」

 ギリッと奥歯を強く噛み締める。


(ふざけるなよ。ここに観光に来たんじゃねぇだろうが。助けるんだ麒麟を。俺の家族を)


 春先のポカポカした陽気の中で、セーラー服を着て微笑む妹と優しい笑顔を浮かべた学生服姿の兄。


 そんな幸せな夢をよく見ていた。

 両親がいて兄弟がいる。自分が欲しくてたまらない平凡な家族。夢で見るぐらい憧れていた、その何気ない日常を暁姉妹は自分と姉に与えてくれた。

『助けて、お兄ちゃん』

(あたりまえだ。家族だからな)


「な、なんだと」

「ほぅ」

 アクゥは驚き、北斗は驚嘆の声をあげる。

 ゆらり。

 装甲を失い肉体は深いダメージ。それでもジンは立ち上がる。

『ギィッ!』

 ジャンク獣の声が聞こえた。

 空耳かと、ジンは思った。

『ギィッギィッ!』

 まただ。どこから聞こえてくるのか。新手なのか、この絶体絶命の状況で。

 アクゥと北斗が、こちらを見ている。

 何故だ何故襲ってこないのだ。自分にはもう気力以外で戦う術は無いというのに。

「ジンくん、君はなんだ?」

 北斗は問う。

 人間なのか機械なのか。

(えっ)

 そこでやっと気づいた。

 この獣の声は自分が発してるものだと。

 傷だらけの身体に視線を移す。

『ギィッッ』

 流れていた。

 真っ黒いオイルが。

 真っ赤な血液に代わり、ドロドロと傷口から溢れていたのだ。

『あぎぃぃぃぃる』

 ジンは吠えた。それは悲しみに満ちた泣き声であり、機械生命体誕生のうぶ声であった。

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