第25話 不協和音(2)

「よくも俺の大事な女(家族)を傷つけたなッ! 徹底的にやってやんぞコラッ!」

「ジンく……ん」

 ずきゅゅん。更に鼓動は速くなる。

(これ本格的にメンテしないとダメかも。なんでこんなにドキドキするんだろ)

『ぐおおおおお』

 青年は血の涙を流して叫んだ。

 バキッバキッバキッバキッ。

 屋上に置かれている複数のエアコン室外機や、使われずに錆ついたジャンク等が青年の身体に融合していく。

「やべぇ巨神化しやがった」

「もぅ、いきなり殴るからですよ」

 巨大な蛸の姿になった青年が、ビルにまとわりついている。

「朱雀倒すぞ。バリアの外にでたら街がヤバい」

「……はい」

(そうだ。もう決めたんだ。迷わないって)

「コネクト朱雀ッ」

「インサートぉ!」

 デュワワワワッと、現れたのは鈍く輝く黒鋼色の巨神。

 ずんぐりとした体形で手足は太い。鱗型の装甲を纏ったその姿は、玄武に酷似している。違いといえば繋ぎ目から噴き出す紅蓮の炎だ。

 ジンをコアにして朱雀が合体、融合化した二セイオンが爆誕した。

 

 ブンッ。触手がジンを襲う。

「へいや」

 トンボ返りでそれをかわす。

「吸盤付きかよ。厄介だな」

 吸い付いたら最後、身体は拘束されてしまう。

「シンくん、バリアで建物等も守られているから、心配しないで全力で行ってください」

「だったな。ならこれでどうだ!」

 炎が螺旋状に蜷局を巻き、ドリルとなると両腕に装備された。

「ドリル・二セイオンだ! うららららッ!」

 吸盤も何のその、貫き触手を破壊する。

「おぉお! すげぇーな朱雀」

「はい。これなら戦えます!」


『きしゃぁあああああああああああああ!』

 獣化した青年を支配するは、破壊という名のプログラム。

 もう地球人としての彼は消滅した。人格もある記憶もある。今まで生きてきた思いでだって残っている。良いことも悪いことだって覚えてた。

 消えたのは人であろうとする理性。残されたのは獣としての本能。

 機械の体と本能にインストールされた指令に迷いもなく、実行する只の操り人形、それがジャンク獣であり、惨めに命を散らせた人間の末路であった。


 末広がりに広がる触手が、四方八方から伸びる。

 逃げ道はない。だが交わす気もなかった。

「ふんにゅううううう!」

 朱雀は炎をはためかせ、襲ってくる触手を燃やし灰にする。

「攻撃は最大の防御ってな。覚えとけタコ助!」

 ジンは大地を蹴り、懐に飛び込んだ。

「うらっ」 

 がら空きのボディーに、体重を乗せた渾身の一撃。

『ぶしゃぁあああああああぁぁぁ』

「!!」

 ドリルの先端が装甲に触れる瞬間、視界を闇が覆った。

 獣の口からものすごい勢いで墨が噴出したのだ。この近距離では避けられない。濃く濃厚の体液が顔を汚しこびりつく。

 何も見えない。このままではマズい。

「ぐっうっ」

 残った触手が気管を締め上げる。

 どんなに強靭な装甲でも守れない箇所がいくつかある。関節の繋ぎ目であり、呼吸を司る気管であった。そこだけは他の箇所よりも柔らかく脆い装甲で覆われているのだ。巨神化した朱雀だけなら何てこともない攻撃だが、今の二セイオンにはジンがいる。コアである彼を中心に構築されているのだ。その弱点を獣が狙ったのだ。しかし、それが選択ミスだと獣は後悔する。逃げていればあるいは生き延びた可能性もあったのに。

 ジュウジュウと、焦げた臭いが漂ってくる。黒い煙が充満しバリア内面に膜を貼る。臭いの元は何処だ。顔と首からだ。ニセイオンの頭部を汚す墨と、首を締める触手から、黒い煙と悪臭は生み出されていたのだ。

『ひぃ』

 気づいた時にはもう遅い。朱雀の放つ炎が墨と触手だけを焼き払う。

「どうした……もうお終いかッ!」

 自由になった両腕を伸ばし、粘着性のある身体を掴むと空高く投げ飛ばした。

「ハァァァァァァッ」

 ジンは両腕を胸の前でクロスして、意識を集中する。足元から大地が生み出す龍脈の気が流れ込み、体内でエネルギーに変えていく。これはジンの中にいる玄武の力だ。

 漆黒の鋼と紅の焔色に機体は輝く。

 上空高く狙いを定めると、腕を大きく広げた。

「ゴッド・バードッツ・インフェルノッッッッッ!」

 ゴウッ。

 胸から超熱光線が発射。鳳凰が大空に舞った。

『ぎにゃぁぁ……ぁぁ……』

 ジャンク獣は蒸発し、跡形もなく消え失せた。

「てめぇには、地獄の業火がお似合いだぜ」

(罪は私が背負います。どうか安らかに)

 朱雀は、名も無き青年に黙祷を捧げた。


「敵うったぞ朱雀」

 へっへっへっと、はにかむ。

「はぅっっ……そんなの頼んでません」

 ぷいっと、頬を赤らめ横をむく。

「……ねぇジンくん。私ね、麒麟ちゃんを助けたい。一緒に行ってくれるかな?」

「当たり前だろ」

 機体が動きだす。

「い、今からですか?」

「おうよッ操縦は頼んだ」

「はい……って家に連絡は、学校はどうするんですか」

「家は青龍に怒られるから無視する。学校は知らん」

「この不良!」

「委員長みたいだなお前」

「にっ」と二人は笑いあう。

「ニセイオン発進!」

 大きく炎の翼を広げると、平行世界の狭間へ旅立った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます