6章 ジン

第24話 不協和音(1)

「麒麟ちゃん」

 薄暗い部屋で朱雀のすすり泣く声が聞こえた。

 清潔感漂うベッドの上で、枕に顔をうずめ声を押し殺して泣いている。

 このままではいけない。それはわかっている。それでもポロリと涙が溢れて自分の意思では止められない。

 この人型のボディーは他のボディーに比べて、何て感情豊かなのだろうか。喜怒哀楽のリミッターを敢えて外して、創り出されたのかと思う程振り幅がありすぎる。

 いや違う。ボディーのせいにしてはいけない。自分の心がコントロールできないだけだ。例え別のボディーでも泣き崩れるだけなのだから。


『……!……』


 隣りの居室から声が聞こえた。そうだった。今後どうするか全員で話し合うのだった。涙を拭き部屋を出た。


「なんでだよ!」

 居室に入ると、ジンが青龍に大声をあげていた。

「ですから先ほども言ったでしょ? 旦那様」

 まるで聞き分けのない子供を言い聞かせる母親の様に、青龍は根気よく語りかけている。

「麒麟を助けに行こうぜ!」

「まぁシセイオンなら次元を突破できるな」

「だろっ玄武」

「だけどそこまでだよ。私達は麒麟と違って空間移動に特化してない。アクゥと戦うエネルギーまで残らないんだ」

 白虎は辛そうに下唇を噛んだ。

 沈黙。皆、朱雀が入室した事すら気がつかない程に心は乱れ、余裕がなかった。

「わたくしはゴセイオンリーダーとして出撃の許可はできません」

「違うだろ! 俺が聞きたい言葉はそうじゃねぇ」

 ぐっと、力強く青龍の肩を掴む。

「麒麟は言った、助けてってよ。俺達はもう家族なんだ! 俺は妹を救いたい」

(ジンくん……)

「旦那様。わたくし達もあなたを、可憐さんとアナタを愛してます」 

 ジンの手を優しく握り、柔らかい笑みを浮かべる。

「長女として、アナタの妻として言い直しますわ。家族が犬死にするのわかってて行く事はできません」

「青龍ッ麒麟が殺されてもい……!」

 ぱぁん。

 乾いた音が部屋に響く。

 朱雀はジンの頬を叩いていた。

 手が痛い。いや心が凄く痛かった。

「……すさ……ぐ?」

「……朱雀さん」

 二人の目が、信じられないと言っていた。自分でもそうだ。気が付くとジンの頬を叩いていた。

「うっうっ」

 ポロポロポロポロと再び涙が溢れてくる。

「お姉ちゃんを悪く言わないで! 悪いのは全部私。もっと早くに決断してれば麒麟ちゃんは……私が代わりに捕まればよかったん……むぐぅ」

「「朱雀ッ!」」

 二人は怒鳴り、同時に手が出るがジンの方が速い、頬をぷにゅうっと摘まんでいた。

「ふざけた事言うな! (ぷにゅぷにゅぷにゅ)」

「はうっはうう」

 バタバタバタバタと、手をばたつかせ逃げようともがく。

「まてまてまて、落ち着け」

「青龍姉さんもだよ」

 呆気にとられていた玄武と白虎が慌てて、三人の間に割り込んだ。

「嫌い……やっぱりジンくんなんて」

(でも本当に嫌いなのは、私)

 朱雀は踵をかえすと、部屋を飛び出した。



 夜の繁華街を素足で歩いていた。

 家を出てどうしようというのか、行くあてもなく途方にくれる。

 わかっていた。姉の気持ちもジンの気持ちも。自分も含めて皆、家族が大事なのだ。

 それでもだ、私は麒麟ちゃんを救いたいと朱雀は思い、ジンと同じ考えになった事を何故か嬉しく感じた。


「! ……あれは……」

 ゲームセンターの前で人盛りが出来ていた。騒がしい声、携帯を構えている若者達もいる。

 ぞくりっ。

 センサーが反応し背中が震えた。

「ジャンク獣!」

 急いでその中に飛び込むと、半機械化した青年がいた。

(ここではダメ)

 青年を抱きかかえると、ビルの屋上まで一気に跳んだ。

『コネクト・バリア』

 半透明の球体が周囲を覆う。巻き込まれた民間人はいない。ここにいるのは二人のみ。

「これでいい……はうっ!」

『た、助けてくれぇぇ』

 まだ人の自我が残っているのか青年は朱雀の身体に、無機物と有機物が融合したアンバランスな八本の腕を絡みつけた。

「わ、私のせいだ……私が……うぐっ」

 気管が締めつけられる。足が大地を失い肉体は宙に浮かぶ。

 触手化した腕が持ち上げている。

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」

 朱雀は抵抗せずにこれは罰だと、迫り来る触手を受け入れた。

 怨みをはらす為なのか、青年は朱雀を散々と殴る。それに飽きると拘束してる触手を広げだした。

 身体は大の字になり、ギリギリギリギリと関節が軋みだす。

「うっ……」

 呻き声はあげるが、泣き叫んだりしなかった。

(泣きたいのはこの人の方だ……私は償わなければならない)


「ウルフ・トマホークッッ!」


 触手が斬られて朱雀は落下。それを武装化したジンが抱き止めた。

「どうして、ここに」

 ポロポロと涙が自然と溢れてくる。

「探したぞ。馬鹿」

「ば、ばか? ……馬鹿じゃないもん」

 カッと頬が染まり身体が熱くなっていく。

(あれ、風邪ぶり返したかな。鼓動も速くなってるし)

「はうっ、下ろしてください」

 お姫様抱っこされてる事にやっと気づき、途端に恥ずかしくなってくる。

『助けてくれぇぇ』

 青年は残された触手で襲いかかってきた。

「うるせぇぇ死ねぇッ!」

 朱雀を下ろしたジンは青年の顔面を殴った。

「えっええええ」


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