第23話 Weinen(終)

「うぅぅ」

 姉妹の戦いを朱雀は泣きながら、見ていた。

 いつも自分はそうだ。泣いてばかりで肝心な時に役にたたない。

 姉が妹を闇から救おうとしているのに。

「私は……変わりたい」

「だったら、そうしろよ」

 背後から少年の声が聞こえた。

 声の主を知っている。

「何故ここにいるのですか……」

 近づいて来たのは、ジンであった。

「約束を破ったのですね、やはり貴方は悪い人です」

「不良が、はいそうですかって素直に聞くわけねぇだろ」

 その強い眼差しで、内面まで見透かされてる様だ。

「心の声に素直になれよ、朱雀。俺はそれに協力するぜ」

「どうしてそこまで……(ハッ!?)ま、まさか身体が目的!」

「違うわ!」

(わかってる。怖そうだけどホントは優しいんだよね)

「俺は只、泣き顔を見たくないだけだ」

「……はぅっ……」

 頬が染まり、体が熱くなっていく。

(あれ、どうしたんだろ、急に体調が……風邪かな)

「……ありがとうジンくん。私は麒麟を救いたい」

 潤む涙を手でぬぐい、朱雀は覚悟を決めた。


「なんのつもりかしら、朱雀さん」

 その声に起伏はなく感情が読めない。

 正直怖い。それでも自分の想いと覚悟を伝えねばならない。

「麒麟ちゃんは、殺らせない」

 はっきりと力強く答える朱雀に、もう迷いはなかった。

「朱雀姉……なんで……洗脳されてないのに……意味わかんないよ」

 そう言って、麒麟は鼻をすする。



「……おどきなさい」

 それは青龍も同じ気持ちであった。

 個性が強くアグレッシヴなゴセイオンチームの唯一の良心とまで、同僚達に揶揄される程に温和で引っ込み思案の妹が、姉の前に立ちふさがっているのだ。

(麒麟さんといい朱雀さんといい、こうして大人になっていくのかしらね)

 全くと、心の中でため息をつく。

 本来なら喜ばしいが、敵となった今はそれを受け入れる事はできない。

「おどきなさい。朱雀さん」

「嫌です」

「……ならば仲良く地ご」「私はお姉ちゃんだからッ!」

 朱雀の声で、かき消される。

「私は麒麟ちゃんのお姉ちゃんだから、けじめは私がつける」

「朱雀さん貴女……」

 朱雀は青龍に背を向けると、両腕を大きく広げた。

 轟。炎の翼が大きく羽ばたく。

「お姉ッ!」

「私の炎はアクゥのナノマシンを塵に帰す。麒麟ちゃん、今からお姉ちゃんが正気に戻してあげるからね」

「朱雀さん、貴女の炎ならそれは可能。しかしヘタすれば麒麟さんは塵となる。およしなさい。妹殺しの罪はわたくしが背負えばいい」

「ごめんなさい。こればかりは譲れません。四女の私にとって麒麟ちゃんは唯一の妹。だから私がッッ!」

 炎の羽がミサイルとなって、麒麟に襲いかかる。

「やられてたまるかッ!」

 涙目で麒麟はハンマーを振りかざして反撃を開始。

 ファイナルラウンドのコングが鳴った。


「朱雀さんッッ!」

「戦わせてやれよ、青龍」

 そう言って、黒鋼色の狼型の鎧を纏ったジンが近づいてくる。

「旦那様! でも妹が可愛い妹達が殺し合いなんて。わたくしが罪を背負えばいいのに……っ」

 ジンに強く抱きしめられる。

「俺はよぉバカだからうまく言えねぇけど、弟や妹だって色々考えてんだぜ」

 ポンポンとヘルメットの上から、髪を撫でられた。

「だから見届けようぜ。結末をな」

「はい」



 炎の羽根で出来たミサイルが、次から次へと発射する。

 麒麟は攻撃を防ぐためにハンマーをバトンの様に回転させると、雷を生み出した。

 それに撃ち落とされ、黒い煙を吹き出し爆発四散するミサイル。

 朱雀渾身の技は、あっけなく破られたのか。いや違う。これは前振りであった。

「これは?」

 キョロキョロと麒麟は、自分の周囲を見渡した。雷鳴が鳴る中、黒い煙が霧のように覆っている。

(マズい)

 そう思った瞬間、脇腹に強い衝撃を受けた。ダメージは無いがその代償に装甲に亀裂が走る。

(やはりそうか、これは)

 麒麟はハンマーを構え、次の攻撃に備えた。

(来る!)

 霧を抜けて、そこから現れたのは炎で出来た巨大な拳。

「オラッ!」

「お姉ッ!」

 ハンマーの柄で攻撃を防ぐが、衝撃は交わせない。後方へ激しく吹き飛ぶ。

「よくやるよ! 武装化してたって痺れるでしょ?」

「そこは我慢する!」

 そう言って、黒い濃霧の中に姿を消した。

(この霧やっかいだよ。それでも、タネが分かれば防ぎ様がある)

 にいっ。

 麒麟は笑みを浮かべ、熱センサーのレベルをあげた。

(これなら視界悪くたって)

「……!」

 足元から迫る高熱。速やかに回避。刹那、朱雀が飛び出してくる。

拳は空を切った。

「えへへへ、残念だね、お姉ッ!」

 ハンマーを振り落とす。

「ゴッド・グラビトン」

「待ってた、この技を!」

 朱雀はタイミングを合わせ、練り上げた炎をハンマーにぶつけた。

「そんなもので防げるかァァァァ!」

「ふんにゅうぅッッッッッッ!」

 炎は螺旋状に回転を始める。

「まさかそれは!」

「私のドリルは全てを貫くッッッ! ゴッド・ドリル・ブレイカッッッッ!」

 巨大ドリルとなった炎が、ハンマーを粉々に破壊した。

「きゃあっっっっ」

 爆風と共に装甲が消し飛ぶが、麒麟の身体は無傷だ。炎がバリアとなったのだ。

 意識朦朧としながら全裸でうずくまっていると、朱雀が近づいてくる。

「お姉ちゃんの勝ちだよ、麒麟ちゃん。今、元に戻してあげるから」


「あんっ」

 自然と吐息が漏れた。

 チロチロと柔らかい炎が耳、臀部、下腹部等、穴がある部位を優しくほぐす様に撫で回す。

「はぁ……っはあぁはぁ」

 朱雀の息も自然と早くなる。熱量を誤れば一瞬で消し炭となるからだ。

「あひんっ」

 びくんと麒麟の体が揺れた。

 汗で濡れだす穴達がひくひくと収縮し、炎が一斉に体内に挿入を開始する。

 ずぶゅずぶゅずぶゅ。

 熱の圧力によって空気が漏れる音が、内側から聞こえた。

「だめぇだめぇらめぇぇぇ」

 身体が熱い。炎が異物であるアクゥのナノマシンのコアを焼いている。そのたびに、びくんびくんと刺激を感じてしまう。

 怖い。怖い。怖い。

 逝きそうだ。恐怖であの世に逝ってしまいそうになる。

 プンッとしたアンモニア臭が股間から漂い、意識を繋ぎ止めた。

 被害者達は、こんな目にあっていたのか。自分は何て酷い事をしてきたのか。

「はぁはぁはぁ麒麟ちゃん、出して出してぇぇ」

「んっんんんぁぁぁ」

 麒麟は弓なりに背を逸らして、体内からドロドロと粘着性のある白濁した液体を吐き出した。

 どひゅどひゅどひゅどひゅどひゅどひゅどひゅ。


「……あれ……」

 いつの間にか意識を失っていたのか、気づくと姉達に囲まれていた。

「青龍姉、朱雀姉……お兄ちゃん……うぅ栗の花臭いよぉ何これぇ」

 排出したナノマシンで身体はドロドロに汚れている。

「はぅぅ、良かった元に戻ったよ」

 えーんと麒麟に抱きつき、朱雀は泣く。

「ありがと、お姉」

 ばつが悪そうに二人の姉と兄に視線を送るが、ジンは逸らして合わせない。

「お兄ちゃん……ごめんなさい。怒ってるよね……」

「旦那様?……」

「い、いや怒ってない……(ちらっ)」

「あっ……お兄ちゃんのエッチ。なになに妹の裸気になっちゃう感じ」

 えへへへと麒麟は無邪気に笑う。

「悪ぃ」

 ジンは前かがみになると、背を向けた。

「うふふふ、帰りましょう朱雀さん、麒麟さん」

 青龍は手を伸ばす。

「はい」

 姉と手を繋ぎ、朱雀は妹に手を伸ばした。


『渡さぬ』


「えっ?」

 パキパキパキパキ。

 麒麟の背後から、白い装甲を纏った両腕が、バリアを突き破って現れる。

『青龍を渡さぬなら、こいつを代用するだけだ』

 犬型のフルフェイス頭部が顔を覗かせ、麒麟を抱き寄せる。

 アームズ化した巧がそこにはいた。

「た、助けて……お姉……お兄ちゃん……」

「麒麟ッッッ!」

 目的を果たした巧は速やかに逃走。

 朱雀の手は空を掴んだ。

「うわぁぁぁぁぁぁ」






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