第22話 Weinen(3)

 青龍が呼び出されたのは、夕方の通勤帰りで込み合う駅前のロータリーであった。

「お姉やっほぃ!」

 こちらに気づいた麒麟が嬉しそうにぴょんぴょん飛び跳ね、両手を振っている。

 妹達から聞いてなければ、今の彼女が洗脳されているとは到底思えなかった。

 ある一定以上の距離を開けて、立ち止まる。

「麒麟さん、話は旦那様から聞きました」

「旦那様? ……あぁお兄ちゃんの事か」

 モテモテだねと、隣にいる朱雀に同意を求めた。

「べ、別にお姉ちゃんは、ジンくんに興味ないもん」

「またまたぁ」

 半目でニヤニヤと笑う。

 いつもの日常。いつものコミュニケーション。

 憎い。だからこそアクゥが憎かった。

「お姉怖い。まるで敵を見てるみたいだね……一人?」

「勿論。貴女の指示通り、わたくし一人で来ましたわ。さぁ用件はなんですの?」

「鬼神を元に戻して。せっかくゲットしたのに、このままじゃ宝の持ち腐れだし」

 起動プログラムを細工しといて正解だった。そうすれば必ずアクゥの方からリアクションがあると考えていたからだ。そこを狙って逮捕する筈だったが、まさか現れたのが愛しき妹達とは。

「……」

 それでも言葉を紡がなければならない。それが自分の使命なのだから。

「お断りするわ」

「うん。そう言うと思った。だから、はい……」

 麒麟はトンと朱雀の背中を押した。

「き、麒麟ちゃん?」

「その代わり人質の朱雀姉を帰す」

「はぅっ!」

「答えは変わらないわ。鬼神が武器商人に渡れば、銀河の罪無き人々の命が危険に晒される。家族と銀河、てんびんにかけるまでもない」



「えっ~ガチひくんですけど。でもねお姉、ここにいる人達を目の前で殺しても同じ事言えるのかなぁ……ひっ」

 小さく悲鳴をあげる。

「麒麟さん……お仕置きが必要ですわね」

 蒼い龍がチロリと舌なめずりするのを、麒麟は見た。

「な、何よ全然怖くないんだから」

 嘘である。長女の恐ろしさは身にしみて理解している。ガタガタガタガタ体が震えて思うように動かない。

「ぐふっ」

 首筋に圧力。両足は大地を失った。

 一瞬で体は宙を飛び大空を舞う。

「コネクト・バリア!」

 球体の結界が張られてしまった。これでもう、人質作戦が通用しない。

「ぐぬぬ」

 悔しい。唇をへの字に曲げる。

 パアン。頬を強く叩かれた。目の前がチカチカする。

「いたーい」

「歯を食いしばりなさい、麒麟さん」

 ぶん。返す手で反対の頬を狙ってくる。

 首を拘束する手を雷で吹き飛ばし、平手を交わした。

「お姉の怒りんぼぉ!」

 自由になった身体で腕をクロス。

「コネクト・アームズ!」

 二本の角とツインテールが生えたフルフェイスのヘルメット。

 身体は、装甲を重ね合わせフリルを表現したワンピース型の鎧に覆われる。

「ソイツに触れる事は死を意味する。これがこれが、麒麟アームズフェノメノンだッッ!」

「お黙りッッ!」

「ばおぉ」

 氷で出来たバットのフルスイングが、腹部にヒットする。

「なんてね」

 ペロリと可愛く舌を出す。

「あ、ありえませんわ……」

 雷がバットをバラバラに切断する。

「あたしを甘く見すぎだよ。お姉ッ! 今下剋上の刻が来たッ!」

 麒麟は腕を突き上げて夕日を指差した。


「お行きなさい!」

 氷の弾丸が向かってくる。麒麟は雷を帯びた巨大なハンマーをひとふりすると、それを消滅させた。

「やりますわね」

「お姉だって。武装化してないのによくやるよ」

 トントンと柄で肩を叩く。

「妹相手には、いいハンデですわッ!」

 ギュン。一瞬で距離をつめてきた。

 目。喉。鳩尾。

 鎧で守られるとはいえ、人が本能的に恐れる部分を氷のナイフが切り裂く。機械生命体であっても人型である以上、そのプログラムに準じてしまう。

「んもぉ」

 ハンマーから手を離しガードを固めた。

「うざぃ!」

 生身の臑目掛けて、全力で蹴り。

 バァン。鈍い音がする。

「ずるぃ!」

 臑は装甲で守られていた。いやソコだけではない。身体全身を、蒼い鎧が纏っていく。

「うふふふ、強くなりましたね、麒麟さん。ここからは本気でやらせてもらいますわ」

 龍をモチーフにした二本の角を生やすフルフェイスの仮面の中から、青龍の笑い声が聞こえた。

「私残酷ですわよ」

「ひっ」

 新たに具現化した砲身が顎に当たる。

 マズい。恐怖で肛門がキュッと竦む。

 ダンッ。ヘルメットが吹き飛んだ。

 頬の肉が、ごっそりと抉られている。

「正義の為なら妹を殺すの……お姉」

 自然と泣き声になっていく。

「今更何を言ってますの? わたくしの妹ならわかるでしょ?」

 青龍の足から氷が吹き出して、螺旋状に回転を始める。

 ごくり。それを見て麒麟は生唾を飲み込む。

 姉は本気だ。本気で自分を殺そうとしている。

「お逝きなさい! 地獄で再会しましょう麒麟さんッ!」

『ギィィィィィッ!』

 八つ首の龍となった氷が咆哮。絶対零度が吹き荒ぶ。

「……あぁあっ……」

 死を覚悟した麒麟に、死神の鎌が振り落とされる。

「させないッッ!」

 刹那、紅蓮の炎が鎌を溶かした。

「えっ?」

「これは、どういうつもりかしら」

 二人の前に現れたのは、武装化し炎を吹き出している朱雀の姿であった。

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