第21話 Weinen(2)

「犬飼くんの行きそうな場所? 知らないよ。黒鋼くん達の方が詳しいでしょ?」

「……飯時に悪かった」

 昼休み。ジンは目に付く生徒達に話しかけていた。

 改めて思う。

 自分は巧の事を何も知らない。

 成神中で殴り合い、神嶋高で再会した。

 それからは、どうだった。子供の頃の様に毎日遊んでいたか。

 否、互いに気が向いた時だけだ。ふらっと来てふらっと帰る。

 自分にはほむらがいて、中島達と作った影狼があった。

 巧はというと一人で過ごしていた。別にそれがおかしいとは思わない。もう子供ではない。友人だから行動するのは一緒なのだと、甘い幻想に捕らわれてる程、幼くもなかった。


「いたジンッッ!」

 中島のテンション高い声が思考を中断した。ふにゃっと頬を緩め、間抜けな顔で近づいてくる。

(何だアイツ気持ち悪っ……)

「ぬあぁっっ!」

 後に続く二人組みを見て、奇声を発してしまう。

 一人は神嶋中学の制服を着たツインテール。もう一人はジン達と同じ制服を着たセミロング。見知った顔の美少女達が、こちらに歩いて来るのだ。


「お兄ちゃん~お弁当持ってきたよぉ」

 テールをぴょんと揺らし、少女が抱きついた。

「お前どういうつもりだ……」

「もぅ照れちゃって。嬉しいくせにぃ」

「はぅぅ、みんな見てて恥ずかしい」

 セミロングの少女はスカートの丈が短いのが気になって、ぐいぐいと裾を引っ張ってる。

「良かったね。美亜ちゃん、伊月さん」

 デレデレと表情が緩みっぱなしの中島が、二人を知らない名前で呼ぶ。

「美亜? 伊月?」

「ありがとう中島先輩! 美亜嬉しい!」

 ジンに抱きついたまま、ひまわりの様な笑顔を見せる。

「な、中島さん。ぶ、無事にア、アニに会えました」

 頬を染めた朱雀は、何故かジンに目線を合わせない。

「(こんなに可愛い妹達いたっけ?)」

 ひそひそと耳打ちしてくる。

「(察しろ。腹違いだよ……一真さ……兄貴の妹……)」

 それを聞いた瞬間、表情が真顔になった。

「そっか……」

 家庭の事情を知っているので、それ以上は何も言わず肩を叩くと、中島は去っていく。

「一緒にご飯食べよ、お兄ちゃん。妹の手作りだぞ」


「はい。あ~ん」

 校庭のベンチに三人は座り、美亜と名乗った麒麟はジンに玉子焼を食べさせようとする。

 中島とほむらは遠くから、それを眺めニヤニヤしていた。

「どういうつもりだ。麒麟、朱雀」

「玉子焼嫌い? 酷いお兄ちゃん。せっかくお姉が作ったのに」

 えーんと泣き真似をする。

「ちっ」

 麒麟の隣に座る朱雀に視線を送ると、コクリと頷く。

「なら平気か」

 ジンは口を開けた。

「美味しいでしょ」

「あぁ美味い」

「ど、どうしてですか。何故そんなにあっさりと口に」

 ガタッと勢いよく朱雀は立ち上がって、その行為に抗議する。

「?」

「……毒を盛られるとは思わないんですか……」

「盛ったの?(もぐもぐ)」

 ぶんぶんと、首を振って強く否定する。

「麒麟はともかく、お前はしないだろ」

「ひどーい」

 頬を膨らませる麒麟とは対照的に、朱雀は瞳を潤ませる。

「わ、私は貴方の、お姉ちゃん達のて、敵……なの……に」

 その言葉は本心なのか偽りなのか、ジンにはわからない。

 それでも朱雀の精神が憔悴し、心が泣いているのは知っている。自然と伝わってくるのだ。

 奇妙な縁で繋がれたジンと五姉妹はもう他人ではなく家族に近しい関係となっているのだから。

「……まぁ、ありがたくいただくよ」

 

 綺麗に弁当を平らげ、ジンは口を開く。

「仲良く弁当食いに来たわけじゃないだろ? 用件はなんだ?」

「んっ~。もう少しイチャイチャしたかったけど潮時か……青龍姉に用事あるんだよね」

「断ったら?」

「うん。全員殺しちゃう」

 その視線の先には、ほむらと中島がいた。

「麒麟駄目!」

 朱雀は麒麟の前で両手を広げた。

「なにそれ? あたしがお姉を撃てないとでも?」

 バチバチバチ。

 麒麟の腕が輝き、スパークする。


「光った」「雷?」

 ほむら達周囲にいた生徒達は、一斉に空を見上げた。


「……わかった。青龍に合わせる」

 ジンは負けを認めると、素直に携帯を取り出した。


「一体これはどうなっているのかしら」

 青龍の目の前で人間がジャンク獣化し、激しい殺意をぶつけてくる。

 自分が寝ていた間に何が起きたかは、話しを聞き把握していた。

 オリジナルが死んだ今、この者の体内にあるナノマシンは只の無害な異物にしか過ぎない。それなのに何故、人の姿を失ったのか。

 答えは一つだ。


 アクゥは、まだ生きている。


『ぎしゅらぁぁぁ』

 獣の爪が青龍を襲った。

 ひらり。軽々と頭上を飛び越え、背後を奪う。

「ごめんなさい。もうアナタを救うことは出来ない……だから」

 両腕を大きく広げると、氷で出来た無数の砲身が具現化。獣をぐるりと囲んだ。

「お逝きなさい!」

 全弾一斉に発射。敵を撃ち抜いていく。

『あぎぃっ』

 攻撃から逃れようともがき蠢くが、全周囲を弾丸が阻みそれを許さない。

『ガッ……ガッ……ッッ……』

 攻撃は終わった。そこに立っていたのは、氷像となった獣であった。

 ダンッ。

 最後の弾丸が像を撃ち抜く。

 ピシッピシッピシッと、そこから亀裂が走り全身に広がると、粉々に砕け散った。


「姉様、こっちも終わった」

 少女姿の玄武が近づいてくる。やはり人であった者を葬るのは心が痛いのだろう、その表情は暗い。

「お疲れ様でした、玄武さん。成果は?」

 取り出したのは、数枚のシール。

「他にも何名かいたが、二人が獣化したせいで逃げてしまった。怖いなら手放せばよかろうに……全く何処の星にも、うつけが……」

「愚痴っても仕方ありませんわ。少しでも回収出来た事を良しとしましょう……あらっ」

 携帯が鳴った。

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