5章 朱雀

第20話 Weinen(1)

「黒鋼くん、どうぞ」

 アクゥ戦から一週間が経過していた。ジンと玄武は巧の家に顔を出した。出迎えたのは唯一の家族である祖母であった。

「お邪魔します」

「少し部屋散らかってるけど、気にしないで調べていいよ。何かわかったら、おばあちゃんに教えてな」

 二人は、ぺこりと頭をさげる。


 巧が姿を消した。家族もジン達も理由が浮かばなかった。

 要領のいい少年であった。同世代に比べて頭が回った。

 高望みせずに現実を受け入れ、日常を過ごしていた、つまらない男。

 それがジンから見た巧の印象であった。


「ぬっこれは」

 玄武が露骨に顔を歪めた。

 少し散らかってるレベルでは無い。足の踏み場を探すぐらいゴミで汚染されている。

 助けを求めてこちらに視線を送るが、ジンは険しい顔をしていた。

「風邪薬に咳止めかよ……」

 脳裏に浮かぶは影狼への誘いを断る巧の言葉。


『僕はお前らと合わないから』


 その時は単純に、巧は群れるのが嫌いなのかと自己完結したが、もしかしたら健康不良少年では無いからと云う意味合いだったのかも知れない。


「ジンッ!」

 血相変えて玄武がデスクの下から、一枚の基盤型シートを取り出した。

 それはシールと呼ばれたアクゥのナノマシン入りのドラッグであった。

「不味いな」

「あぁ。そこまで馬鹿とは思わなかった」

 沈黙。

 先に玄武が口を開く。

「探すんだろ? 巧を」

 もうこの世にいないかも知れない。生きていたとしても、人ではないかも知れない。

 それでも、ジンは強く頷く。

「おぅ。一発殴ってやらないと気がすまねぇ」


 作戦を考えようと二人は家に帰ると、ドタバタと何故か騒がしい。

「……もぅ……ふろ……」

 白虎が何か叫んでた。

 バンッ。

 居室の扉を開くと飛び込んで来たのは、こっちに向かってくる双つのマスクメロン。

「なっ!」

 予想外の出来事にソレを支えきれず、背後にいた玄武も巻き込み後方へ倒れ込む。

 一体何があった。

 目を開けると、天井。

「むぎゅうぅ」

 背中で蛙を潰したよう声で、目をぐるぐる回している玄武。

 下腹部には、人の体温を感じた。

 ふぅ。ふぅ。ふぅ。

 生暖かい吐息が布越しに、愚息を刺激する。

 白虎かと思ったが太ももに、たぷんと乗る乳房は成人した玄武よりも大きい。

「ジン殿! 玄武姉さん!」

 慌てて室内からバスタオルを持った白虎が近づいてくる。

「……」

 ソッとテント張る股間に視線を動かすと、濡れた蒼く長い髪の毛が上下に動いていた。

「せ、青龍ッッ!」

「おやおや、あらあら、うふふふ。とっても元気ですわね」

 熱を帯びた視線でテントを指先でこする。

「姉さん! だから何か着てよっ! あとジン殿から離れてぇぇ」


「煩いぞ営業中だ」と、可憐に殴られタンコブを作った青龍はシュンとして、居室のソファーに腰掛けていた。

 薄い青色のジャージを着ている。

(流石です。可憐殿)

 白虎は店に戻った可憐に、心の中でサムズアップする。

「やっと起きたか。大丈夫なのか色々と……」

 ジンのその一声でパッと表情が明るくなると青龍は、ジンの両手を握りしめた。

「はい。ご迷惑おかけしました。わたくしお風呂に入って綺麗ですわよ。さぁジンくん、心置きなく召し上がれ」

 ぷるんぷるんと、ノーブラのおっぱいを揺らしてにじり寄る色々と残念な長女を、次女と三女は呆れつつ、そして嬉しそうに笑みを見せて全力で止めた。


 無数に存在する平行世界。それはエメラルドグリーンの海底から無数に産み出される水泡の様。

 その隙間にはどの世界にも属さない狭間があった。

 一つの狭間がある。

 空は薄暗く日は射さない。

 切り立った崖が存在。その先には滝があり、天から永遠と濁流が降り注ぐ。内側は洞窟になっており、巨大な湖が支配していた。

 そこに上半身を湖面から出した、鬼神阿修羅がいる。


「やはり駄目か」

 コクピットから巧の声が聞こえた。

「むぅっ、何でこんなに不安定なんだろ?」

 麒麟は生足を湖につけて、ぷらぷらと動かしている。

「おそらく青龍が何かしらの細工をしたのだろう」

「うぐっ流石は青龍姉。転んでもタダでは起きないか……あたし行こうか? 依頼主に鬼神を渡す日も近づいてきてるし」

「いいのか? 姉達と本気で構える事になるんだぞ」

「えっ~どの口がそれ言うかなぁ。転生前のアンタがアタシを眷属にしたんでしょ」

 半目で頬を膨らます。

「だな……やり方はお前に任せる。僕はこの肉体をもっと馴染ませたい」

「了解ぃ」


 朱雀は、牢獄に閉じ込められていた。

(青龍お姉ちゃん、元気になったかなぁ。ジンさんにエッチな事されてないといいけど)

 ポンと頬が真っ赤に染まる。

「あれあれお姉、またエッチな事考えて~」

「はうぅ」

 麒麟がにやにやと覗き込んでいる。

「ち、違うもん。べ、別にジンさんの事なんて」

「ふぅん、お兄ちゃんの事考えてたんだぁ」

「はうぅぅ……麒麟ちゃん!」 

 話題を変えようと深呼吸、キッと妹を睨みつける。

「こんな牢獄でお姉ちゃんを封じられると? お姉ちゃんの炎は、アクゥのナノマシンだって灰にするんだから!」

「ふふふ。あたしを置いて逃げるのぉ? 出来ないよねぇ、あたしが人殺さないように洗脳されたフリして側にいるくらいだもんねぇ」

 ケラケラケラと口をVの字にして邪悪に笑う。

 ぎぃぃぃぃ。

 扉が開かれる。

「会いに行こうか、お兄ちゃんに」

「えっ?」

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