第19話 Renatus(終)

「ぎぃぃぃぃぃ!」

 ギガンティック白虎の咆哮に大気は揺れた。ついにこの時が来たと、彼女は高まる負の感情に身体が支配される。

 自分を妹達をさらい心を犯して支配した。

 激しく湧き上がる殺意。

 銀河の平和を守護する聖獣としては、決して許される事では無いが、今白虎は一人の女性として姉としてアクゥに復讐しようとしている。

 ふいにグイッと、少女姿の霊体を力強く抱きしめられた。

「ジン殿」

 コネクトし、融合した愛しき少年の意識が流れ込む。

「うん……うん。そうだね。一緒に平和を取り戻そう」

 家族を友人を街を守りたいと云うジンの強い意志が、心に絡みつく楔を解き放つ。



『ほぅ』

 黄金色の仏を連想させるギガンティック形態になったアクゥは、感嘆な声をあげる。

 負の感情は戦いにおいて足枷にしかならず、故に姉妹を犯した。

 復讐という名の甘美な美酒で酔わせる為に。

 酩酊状態のゴセイオンチームなど敵ではなく、自らの計画を遂行する為の妨げにすらならなかった。

 しかし、今の白虎はシラフだ。

 黒鋼ジンの存在が彼女を復讐から解放したのだ。

『いいバティを見つけたな』

 本心からそう思い、唇が笑みの形を作る。

『では始めようか。ラストバトルだ』

 卵型のつり目な瞳が黄金色に輝く。



 ジンはギガンティック白虎の中にいた。簡易的なコクピットにジンの肉体は腰掛けている。

 融合率百パーセント。肉体を抜けたジンの魂は、白虎と共にあった。

 研ぎ澄まされた五感は共有され、今や二人で一人の存在。

 文字通り合体していた。

 しかし、やはり馴染めない。四肢を操り空を駆ける。本能がそれにエラーを出し思うように動かせない。

「すまない。俺が足を引っ張ってるな」

「ハッハッハッ何を言ってるジン殿、これしき全く問題ないぞ」

 白虎はあっけらかんと笑い、機体の右腕をあげた。

 ぎゅるんぎゅるんぎゅるん。螺旋状に回転する光の柱に本体が包まれていく。

 その中で獣型から人型にモードチェンジ。

「デュワッッッ!」

 柱ははじけ、右腕を突き上げ左手を腰に置いた光の巨神が出現した。

 その姿は、白銀と黒鋼色ツートンカラーのニセイオン。

 この姿なら戦えると、ジンは重心を前に持っていき、腰を少し曲げ両腕を構えた。

  アクゥは両掌を胸の中央で合掌する。

 膨れ上がる熱量から何かしらの技に移行する事は明らかだった。

 二体の距離は離れている。攻撃するなら飛び道具を使うに違いない。ジンはそう判断すると、踵を浮かしつま先立ちで備えた。

「来る!」

 白虎の合図と共に戦いの鐘が鳴る。

 腕を広げたアクゥの胸の中央で、グルグルと螺旋状に回転する小さな光。それが徐々に大きくなりボディーを守る盾となった。

「ハッ? 盾?」

 ジンはあんぐりと口を開けた。

 悪のボスは好戦的で、防御を気にしないと思っていたからだ。

「!?」

 盾の中央に大きい球体が埋め込まれており、それを囲むように八つの小さな球体があった。そこから光線が発射した。

「そうこなくちゃよ!」

 ジンはビビりながらも悪態をつき、一つ、また一つと交わしていく。

「うりゃっ!」

 蛇腹刀の刃がアクゥを襲うが、盾がそれを許さない。

「攻撃と防御の二面性のある武具……冷静に行こう」

「おぅッ」

 ならばとボディーを諦めて蛇腹は盾に絡みつく。

「力比べと行こうぜ!」

 綱引きが始まった。

 白虎はパワータイプでは無い。ニセイオンになった所でそれは変わらない。一方アクゥはパワータイプである。瞬間で決着かと思われたが、互角であった。互いの距離感は一ミリとも変わらない。



『ほぅ』

 アクゥは再び笑みを見せた。そのカラクリに気づいたのだ。

 ジンだ。パワータイプである玄武のナノマシンをその身に宿してる。なら互角でも不思議ではない。

『クックックックッ』

 笑う。声高々に笑う。

(やはり地球人は我らの素体として実に相性がいい)

 ジンという融合体(ハイブリッド)の存在を知った時に、今回の実験を思いついた。

 必ず成功させてみせる。その為なら自分は生命を捨てる。

 アクゥはこれが最後になるだろうと、拳に全エネルギーを注いだ。



「っ!」

 ジンは後ろに勢いよく転んだ。

 アクゥの力が突然ゼロとなったのだ。

 ギュンッ。砲弾化した盾が頭をかすめた。

「くそッ」

 アクゥの姿が見えない。

「上だ!」

 白虎は叫んだ。

 金色の刀を振り下ろし、アクゥが落ちてくる。

 蛇腹刀引き戻す。否。間に合わない。

「なろぉぉぉ!」

 下腕部開放。折りたたまれていた刃が展開。

 ギンッ。

 危機一髪。十字に重ねた刃が攻撃を防御した。

 蛇リ蛇リ蛇リ蛇リ。

 間髪を入れず牙がアクゥの首元を狙うが、それを読んでいたのか『カカッ』と笑い後方に飛んだ。

「今だッ!」

 白虎もまた、それを予想していた。

 弓を構え刀を矢に見立て、放つ。

「ゴッドアローッッッ!」

 刀は深々と胸を貫き、アクゥは大地に跪く。

「ゴッドビームッッッッ!」

 機体の胸の中央から、ニセイオン最大級の攻撃が発射する。

『グッ、見事なり……』

 金色の巨神は塵へと帰っていった。

「やったのか……」

 あっけなさすぎると、ジンと白虎は思った。



「……倒したのか……」

 玄武も同じ様に感じていた。

 素直に喜ぶことは出来ず、嫌な胸騒ぎがするのだ。

 そして、洗脳されている二人の妹の安否も気になる。

「祝え、新たなる王の誕生を」

 足元で売人は嬉しそうに叫んだ。

「どういう意味だ!」

 胸倉を掴む。

「ハハハハハハ……れるやぁぁッ!」

 かん高い声で笑い、頭部が粉微塵に吹き飛んだ。

「ツっ!」



 ゴホゴホゴホゴホ。

 咳き込みながら、バリアの中へ侵入した少年がいた。

「ふぅん、デカいじゃん」

 大地に突き刺さる金色の盾を見上げている。

 ドクンドクンドクンドクン。

 中央の球体が少年に呼応し、脈打ち不気味に蠢きだす。まるで心臓の様だ。

「あぁっ、ここにいたぁ。先に行かないでよ」

 背後から少女の声が聞こえた。

 振り返らなくてもわかる。体内のナノマシンが教えてくれる。

「麒麟……継承の儀を行う……」

「うん。あっちもあっちで決着ついたみたいだし。いいタイミングだね」

 ドクン。

 少年は、球体に手を差し込んだ。

「…………カッ……カカカカカカ」

 球体(コア)が、少年の身体に融合していく。

「良かったね。相性のいいボディー見つかって……アクゥ」

「あぁ。ナノマシンをバラまいたかいがあった」

「そ、その子の人格はどうなったの」

 朱雀が近づいてくる。

「死んだ。脳にまで俺様のナノマシンが汚染したからな」

 ぱちんっ。

 朱雀がアクゥの頬を叩く。

「なんて酷い事を!」

「お姉ッ! 王に向かって!」

 アクゥは麒麟を止める。

「ふん、やはりな。洗脳されてなかったか。何の為にここにいるか予想はつくが、何もせずに只、見ていた貴様も同罪だぞ朱雀」

 犬飼巧の顔で、アクゥは邪悪に笑った。




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