第18話 Renatus(3)

 明け方、白虎はシャワーを浴びていた。ジンの匂いを洗い流したくなかったが、今から外に出るので仕方ない。

 二人はまだ泥の様に眠っている。

(昨日のあれはアクゥの仕業だ。爆発した男の血から奴のナノマシンを見つけた。何を企んでいようが、必ず捕まえてやる)


「んっ?」

 たらりと白濁した体液が股間から垂れてくる。ジンに注ぎ込まれたモノだ。

下腹部を優しく触れる。

 もしかしたら子を宿したかも知れない。

 地球人とは別種の存在。機械生命体。この可愛い少女の姿も、仮初めの一形態にしか過ぎない。

 本来なら受精する事は有り得ない。しかし、ジンの遺伝子にはナノマシンが含まれている。故に彼との間にもしかしたら……。

 白虎は母性に満ちた瞳で、もう一度撫で、決意を新たにバスルームを後にした。



 ゴホゴホゴホゴホ。激しく咳き込みながら、自室でネットの書き込みを読んでいる少年がいた。

 部屋に散乱するは、風邪薬や咳止め液。

「やっぱりこれが一番か」

 少年は基盤の形したシールを舌に乗せた。

 モニターに映るは奇声を発した化物が、爆発する動画。

 それを見つめがら、ゆっくり溶かしていく。



 これで何人目だろうか。白虎はため息をついた。

 あれから一昼夜問わず、街中で人間が変形したジャンク獣が暴れていた。

 その度に青龍を除いた、三人で対応に当たっている。

 今までに無いくらい大量に産み出されるアクゥの眷属達。

 他の街にもいるかも知れない。

 自殺行為だと、白虎は思う。眷属を造るとは自分のナノマシン(生体パーツ)を渡すという事。数が増えれば増える程に負担となり、最悪死ぬ。

 アクゥが自滅するのは構わないが、地球人を巻き込み死に追いやっている。それは絶対に許される行為ではない。


「せいっ!」

 武装化した白虎の蹴りが、ジャンク獣化した男にトドメをさした。

「……あった……」

 失神し倒れ込んだ男の首筋にシールが貼られている。

 今回のジャンク獣達には共通点があった。全員身体のどこかに、この男と同じ基盤型のシールが貼られていたのだ。

 いつもは皮膚と半融合してて、剥がす事は出来なかったが、今回は貼られたばかりなのか原形を留めている。

 ペリペリペリペリ。綺麗にシールを剥がすと、男は人の姿を取り戻す。

 それを横目にシールの内面を見ると、アクゥのナノマシンが蠢いてるのをセンサーが反応した。

 シールを配ってる奴がいる。ソイツを倒さなければ解決しない。

「必ず見つけだす」

 決意を新たに、白虎は街に消えていく。


 噂。ネット。掲示板の書き込みは今、ジャンク獣の話題で盛り上がっていた。

 人が異形なる姿に変形し、時には爆発する。その動画がPV稼ぎに不特定多数に拡散される。

 沢山の目に晒されるという事は、それだけ関心度も高まる。

 一つの書き込みがあった。


【ある薬をやりすぎると、化け物になる】


 するとそれに呼応して書き込みが連鎖。

 勿論、九割は眉唾だが、残された一割に真実が埋もれている。


【狼の刺青をした売人がシールと呼ばれる薬をバラまいている】


「狼か」

 そのワードに白虎は強くひかれた。

 それから居場所を見つけ連絡を取り、客を装って直接会うまでに、さほど時間はかからなかった。

「俺も行く」とジンは言ったが「お主だと目立ち過ぎて、逃げられる可能性がある」と玄武に止められる。

「何かあれば直ぐに呼ぶから、待機してて」

 ウインクして頬に口づけすると、白虎は単身指定された場所へ向かった。


 そこはつぶれた商店街。街中央に巨大ショビングモールが出来た為に閉店を余儀なくされた事業主の墓標。

 シャッターが降り、埃まみれのテナントが並ぶ。

 そこに一軒のおもちゃ屋があった。三分の一程、シャッターが開かれている。それが目印。

 指示通りに裏口にまわると在庫をしまう為に使っていたのか、大きめな倉庫が見えてきた。

「あんた初めてだよな」

 ふいに背後から男の声が聞こえた。

 狼の刺青が彫り込まれた両腕が首元から伸びてくる。

 振り返るな。それが売人が決めたルールであった。

「狼か、カッコいいね」

「……これは犬だよ……手だしてシール渡す」

 左手にシールを乗せられる。

「じゃあ料金を……」

「いや初回はタダだ。気に入ったら次から貰う」

 スッと気配が消える。

 逃がさない。

 全力疾走するフードをかぶった男の背中を見ながら、待機していた玄武とジンに合図する。

「さて、頼んだよ姉さん達」

 白虎は周囲に視線を送る。

「いるのは分かっている。出てこいアクゥッ!」


『くっくっくっ狼をおびき出すつもりが、虎が釣れるとはな』


「ずいぶんとガリガリで、まるでゾンビだね」

 倉庫から現れたのは、痩せ細った姿のアクゥ。

 まるで大病に犯され、死期が近づいた病人の様だ。

「妹達を……」

 言いかけて首を振る。

「……貴様は星団法に背いた。銀河連合の名にかけて逮捕する!」

『やってみろ! ゴセイオン!』

 金色に不気味に輝く双眸。

『コネクト・ギガンティック』

 倉庫から使われなくなったジャンク達が飛び出し、アクゥと融合していく。



「おらッ!」

 ジンの頭突きが炸裂。売人は地面に倒れ込んだ。

「犬かよ、紛らわしい!」

 空が金色に輝く。

「ジン、あれを見よ!」

 バリヤによって空間が不可視になる瞬間、金色の巨神がそこにいた。

「アクゥ! よくも俺達の街を滅茶苦茶にしたなッ許せねぇ!」

「ジン、行け! ここは我に任せよ。ヤンキーの力見せてやれッ!」

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