第15話 Liar(終)

 狼型の黒鋼の鎧を身にまとい、ジンは鬼神の体内に進入した。

『異物を排除せよ』

 白血球が如く機械で出来た触手が襲いかかる。

「ハッ! お呼びじゃねぇんだよ!」

 装甲が逆立つとその中に飛び込んでいった。

「ウルフ・ファンガッッ!」


 中心部。魂を司るコアの球体の中に青龍はいた。今の彼女に意識はなく、只、鬼神を動かすパーツとなっている。

「助けにきたぜ。青龍」

 触手の全てを破壊して、ジンはたどり着いた。

『敵と認識。破壊する』

 閉じていた青龍の切れ長の瞳が開かれると、球体から飛び出してくる。

『じゃぁぁぁ!』

 両掌から氷柱で出来た弾丸を撃ちだした。

 ジンは真横にかわすが、攻撃は止まらない。一発二発三発……。氷柱は床に突き刺さっていく。

「チッ、鬼神に洗脳されてんのか」

 壁に追い込まれる。

『逃げ道はないですよ。わんちゃん』

 うふふふと、青龍ではない青龍が微笑む。

「俺はジンだ! お前を必ず取り戻す」

「おやおやあらあら、頼もしいですこと。なら、わたくしを救ってごらんなさい。わんちゃん」

 シュッ。息吹と共に空間を切り裂くは、氷の短刀。

 ジンの仮面に刃が迫る。

 肉体を覆う鎧は生体装甲。傷つけば当然、ダメージを受けて血も吹き出す。今回はベルトの中央に感覚をコントロールする玄武はいない。

 ダイレクトに五感は伝わってくるのだ。

 しかし、デメリットだけではない。

 今のジンは機械生命体と同じ存在(スペック)。

 故に刃を交わす事等、造作なし。

 顔を逸らし刃をかわした。同時に左腕で外側へ円を描く。短刀はそれにハジかれると、青龍は無手となった。

 ジンはそのまま懐に飛び込み右腕を巻き込むと、床に叩きつける。

 みぢりっ。関節が軋み音が鳴った。

 倒れている体を両足で拘束。掴んでいる右腕を脇に挟みテコの原理でしならせ、関節を極めた。

『あ、ありえませんわ。わたくしが地を舐めるなんてぇぇぇぇ』

「よせバカ! 折れるぞ」

 右腕に異常な程の力が込められる。

 バキンッ。

 肘ジョイントを自ら壊し青龍は強引に脱出すると、ジンの腹部を蹴った。

『よくもよくもよくよくもよくもよくもよくもよくもっ! びちぐそがッッ!』

 ダラリと重力に逆らわない右腕。それを気にせず、修羅の形相で激しい蹴りの連打。

 ジンは亀のように丸まってひたすら耐えている。

『下等生物がッッ!』

 つま先がジンの顎を貫く。

 カランカランカラン。

 狼の仮面は外れ、ジンの顔が外気に晒される。

『うふふふ。可愛い顔してますわね。ひょっとして、まだ蒼い果実なのかしら』

 ぺろりと、妖しく唇を舐め手を伸ばした。


「んっ……んっ」

 氷柱に四肢を拘束されたジンの唇を、青龍は奪った。

 唇を閉じて抵抗するが、ヒダの一本一本を舌が丁寧に舐めていく。

「うふふ、どうしました? ピクピクって門が開いてきましたよ」

 舌先が螺旋状に蠢き、上唇と下唇の境目をほじる。

「ほら、もう指だって入っちゃう」

 ぬぷぷぷ。

 トロリと垂れた唾液と空気が混ざった音がする。

 ぬぷっぬぷっぬぷっ。

 指先が蓋をしている歯に触れた。

「ワンちゃん、アナタ彼女はいるの?」

 ジンの脳裏に浮かぶは、ほむらの姿。

「もうしたのH?」

 ジンの頬が染まる。

「おやおやあらあらうふふふ。そう、まだなのね」

 動揺し、開いてしまった歯の隙間に指が挿入するのを許してしまう。

「キツキツね。指一本がやっと。うふっ抵抗しないで体の力を抜きなさい」

 これが敵のモノなら噛みきっていた。しかし青龍は敵ではない。

 ジンは抵抗出来ず、声を押し殺す。しかし体は正直だ。口内に二本三本と挿入されるたびに、自然と体は快楽を求め動きだす。

「……くっ……」

「あはっいい子ね。坊や。ここもこんなに激しく脈打って今にも爆発しそう」

 青龍はドクンドクンと鳴る心音に耳を傾ける。

 ぬぷっ。唾液にまみれた指を引き抜いた。

「これ以上続けると、どぴゅっって心臓出ちゃいそうなので止めといてあげますわ」

 気温差で指先から湯気がたつ。

「んっんんん」

 青龍は名残惜しそうに、指を一本一本口に含んでいった。

「何故あなたから妹達の匂いがするかやっと、わかったわ」

 耳元に顔を近づける。

「あの子達の味がする」

「アナタが何故妹達のナノマシンを持っているか、わたくしには興味有りません。お引きなさい。そして二度と鬼神の眠りを妨げてはいけません」

「随分と優しいな……あいつらには会わないのか? お前を迎えに来たんだぞ」

 首を振る青龍。

「わたくしは今や鬼神の一部。あの子達の姉はもういない」

 瞳がぐるぐると回転して、定まらない。

「俺はよ……家族がバラバラになる悲しみを知っている。だからアイツらに同じ気持ちを味わいさせたくねぇんだよ。青龍ッッ!」

 バキンッ。四肢を固めた氷柱を破壊。青龍に飛びかかり、馬乗りになる。

「あ、ありえませんわ。わたくしの術を破るなんてッ! ……まさか……」

 ジンの体から炎が吹き出し、水蒸気が発生している。

「そう朱雀の炎だ。戻って来い青龍ッ!」

「きゃあぁあぁぁ」

 バチバチバチバチ。

 そして麒麟から託された雷の力で、体内に巣食う鬼神のパーツをショートさせた。


「……う、う……ん」

 青龍の瞳に映るは心配そうに顔を覗き込む少年。彼女はしっかりとジンを捉えていた。

「ありがとうジンくん……わたくし操られてたとはいえ、アナタになんて酷い事を……」

「気にすんな、こっちも腕破壊したんだ。チャラって事で」

「それだってわたくしが」と言いかけて青龍は口を閉ざした。これはジンの優しさなのだと気づく。その好意に心を打ち抜かれ、身体が熱くなる。

「さぁ行こう。みんな待っている」

「はい……わたくし……二号さんでも構いませんから……」

 差し伸べた手を握りしめ、青龍は恥ずかしそうに笑う。

「?」

 ジンは不思議そうに首を傾けた。


「みんなあれ!」

 鬼神の中からジンが青龍と共に出てくる。

「お姉ちゃん!」

「お姉!」

「姉さん」

「流石我が見込んだ男よ」

 張り詰めた気が緩む。無理もない。離れ離れになった五姉妹がついに揃ったのだから。


 そして、この時を奴は虎視眈々と狙っていた。

『やれっ朱雀、麒麟』


 アクゥの合図と共に二人は分離。

 無人となり動きを止めている鬼神に合体する。

「どういうつもりだ!」

「ごめんね白虎姉、鬼神はアクゥが頂く」

「くっ……やはり洗脳されていたのか」

 玄武は己の迂闊さを悔やんだ。

「そんな……やっとアナタ達と会えたのに……」

 精も根もつき果てた青龍は意識を失い、ニセイオンの手の中で倒れこんだ。

「朱雀、麒麟! 騙していたのか俺達をッ!」

「ごめんねお兄ちゃん。でも美人姉妹とHしたし冥土の土産になったでしょ」

 鬼神の瞳が黄金色に輝き、起動を開始する。

「マズいぞ、ニセイオンでは鬼神を止められない」

「ばいばい。お姉、お兄ちゃん」

 鬼神は砲身を構えると、超熱光線を放った。

 絶体絶命のジン達、逃げることもままならない。しかし機体に発射される事はなかった。

 光線は上空へと放たれたのだ。


「す、さ、ぐ、姉ぇぇ」

 麒麟の呆れた声がこだまする。

「はぅぅぅ、麒麟ちゃんがHとか言うからだもん」

「うっ~もぅいいや。命拾いしたねお兄ちゃん達」

 目的を果たし、興味を無くしたのか鬼神は上空へと飛ぶ。

「お姉のドジっ子」

「お、お姉ちゃんドジじゃないし、Hじゃないもん」

 二人は言い合いしながら去っていく。


「アイツ……わざと外したのか……」


『くくくく、鬼神を取り戻した。これで次の計画に進める』

 空を見上げながらアクゥは、にぃぃと邪悪に笑った。





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