第13話 Liar(2)

 騒がしく悪くいえば下品に盛り上がっている外とは違い、バーエデンの店内は静かであった。そこだけは切り取られた別空間の様に、のんびりとした時間が流れている。

 BGMの小さな音で流れるジャズは、空間に溶け込み意識しなければ聞こえない。

常連の客達も必要以上に会話せず、静かに過ぎ去る刻を楽しんでいる。

 カウンターで玄武と白虎が飲み物を、奥の厨房では可憐が料理を作っていた。

 チリンチリンと涼しげな音で風鈴が鳴り、扉が開く。


「すまねぇな姉貴、忙しいのに」

「気にするな。お前は彼女たちを守れ」

 ジンは人数分のコーヒーを用意すると、玄武達がいる二階居室へと足を運ぶ。

 涙を流して、姉妹は抱き合い再会を喜んでいた。

「ありがとうジン。よく二人をつれてきてくれた」

「俺は何も。そこでばったり会っただけだし」

「いやいやジン殿がいなければ、大変な事になってたかもだぞ、私からも心からの感謝を」

「……おぅ。会えて良かったな」

 そして落ち着いたのか、ふかふかなソファーに腰を下ろして、ジンの持ってきたコーヒーを口に運ぶ。

「はぅぅ熱いですぅ」

 ふーふーふーと息を吹きかけ、ちびちび飲む朱雀に「私のを飲め。ぬるいぞ」と、猫舌の白虎が自分のを渡した。

「苦いぃミルク。お兄ちゃんの濃いミルクを」

 麒麟はすっかりジンに懐いた様で、まとわりついてくる。

「やめろ脱がすな。玄武、見てないで妹の暴走を止めろ」

「……青龍姉様は?」

「……うん。その事でここに来たんだ」

 麒麟はジンのズボンから手を離し、今までの柔らかい表情から一転、険しい顔つきへと変わった。

「青龍お姉を助けて」


「お姉ちゃんは今、阿修羅の中にいます」

 アクゥにより暴走させられた鬼神。

 青龍は体内に侵入し元に戻そうとするが叶わず、自らの生体パーツを融合させ次元の狭間に自分共々封印したと、朱雀は言う。

「ふむっシセイオンならいけるか。鬼神を倒し姉様を救う」

「しかし姉さん、それには……」

 それにはジンの協力が不可欠。今までは街を守るために共に戦った。戦ってくれた。だが今回は事情が違う。

 行き先は次元の狭間。阻む鬼神は、銀河連合の軍用機。

 地球に帰ってこれる保証が無い片道切符。それに乗ってくれと白虎は迂闊には言えない。

 それでも、それでもジンならばと意を決して口を開いた。

「ここまで世話になり、さらに図々しい願いだとは承知してるが、頼むジン殿、力を貸してほしい」

 深々と頭を下げた。

 次に麒麟、ワンテンポ遅れて朱雀が続く。

 玄武はジンの返事が分かっているのだろう。只、微笑を浮かべている。

「おぅ。任せろ」

「ほんと! ありがと」

 麒麟は瞳をキラキラ輝かせ、ジンの両手を強く握り締めた。

「姉ちゃん助けような」

「うん。お兄ちゃんだぁい好き♡」

 飛び交うハートマーク。麒麟は抱きつき、腰に腕を回した。

「うぅ」

 朱雀は不安げに唸る。

「なぜそんなにあっさりと? 私たちは地球に災いを運んできたのに……」

 不安になるのも無理はない。恨まれ憎まれるなら分かる。だが目の前の少年はそれをせずに、敵地に自らの意思で足を踏み入れるというのだ。正気の沙汰では無かった。

 例え友人の頼みとはいえ死ぬかもしれない。地球人は皆そうなのか。いやここに来るまでの間にある程度は情報を仕入れてきた。ジンの様な思考はあまり例を見ない。

 ならば考えられる事は一つ。

「み、見返りにエッチな事を……はうぅぅ」

 全身が茹で上がった蛸の様に真っ赤に染まる。

「そうなのかジン殿! 私はいつでも準備できてる!」

 ドンと来いと、胸を張りおっぱいをぷるるんと揺らした。

「うん。あたしもあたしも」

 麒麟はジンのズボンに再び手を伸ばす。

「よさないか。お主たち。ジンが困ってるだろ」

「だよね、エッチはまだ早いよね」

「我が最初に跨がる」

「はぅぅ手込めにされてますぅ」

「しないわ、性獣姉妹ぃぃ」

 うががぁと、ジンは吠えた。


「すげぇなしかし」

 ジン、そして玄武達姉妹は巨神化した麒麟の中にいた。改めて彼女達が自分らとは違う進化を遂げた生命体だと肌で感じた。

 全天周囲モニターに映るは、流れていく無数の星。この一つ一つに世界が存在するという。

 多元宇宙。パラレルワールド。平行(並行)世界。名称はそれぞれだが、それらには自分ではない自分がいると玄武はいうのだ。

「もしかしたら、我とお主がクラスメートの世界があるかも知れぬ」

「玄武年上だろ。なら先公だな」

「むー保険の教師はどうだ、そそるだろ」

「いや姉さん、そこはロリばばあで。年ごまかして転校生も萌えるのではないか」

「はうぅ平行世界でもエッチな事されちゃうです」

『ならあたしは妹でお兄ちゃんといつも一緒がいい……あっ見えてきたよ』

 景色が変わる。濃紺の闇に覆われた世界がそこにあった。

『どこにも属さない次元の狭間。ここにお姉と鬼神はいる』


 切り立った崖が見えてきた。

 鯨型の宇宙船はそこに着陸する。

 前方には滝があり、空間の裂け目から流れてくる大量の濁流が崖下へ落ち、狭間へと消えていく。

『この中に鬼神がいるよ』

『! お姉、高エネルギー反応』

 滝の中から発射されるは、金色のビーム。

「緊急離脱!」

 宇宙船は四つの光球になり、分散し回避。

 黄色は麒麟。赤は朱雀。白は白虎。そして黒は玄武とジン。

 霧雨を身にまとい、滝より現れしは金色の鬼。

 黄金に輝くボディに三面六腕の異形なる姿。耳まで裂けた口からは牙が覗き、つり上がる目が上空を飛ぶ四聖獣を睨みつける。

「青龍お姉ちゃん!」

「姉さん!」

「姉様!」

 呼びかけるが機体からは何の反応も無かった。

「どうする? 玄武姉さん」

「止むを得ない、予定通り鬼神を倒し姉様を救う」

「ジン殿、今回は私たちが操縦する。君は打ち合わせ通りに」

「おうっ。任せろ!」

『ギギギギ』

 鬼神は呻き、六本腕の両手を広げた。

 全ての指先に光が集まっていく。

『アスランビームッッッ!』

 凄まじい圧力。プレッシャー。触れば一瞬で塵となる三十もの超・熱光線。

「だが当たらなきゃ意味はねぇぇ! 行けっ玄武ッッ!」

 ジンの激で、玄武達姉妹は全てを回避。

「いっくぞぉぉ!」

 空で交わる四色の光球。

「コネクト」

「聖獣ぅぅ」

「インサートッッ!」

『ギィィィィッ!』

 阿修羅は見た。薄紫色の空に現れる日輪を。

 輝く太陽が闇を祓う。

「聖獣合体! シセイオンッッ!」

 聖なる獣が今、現界する。

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