第9話 Iunctio(4)

 港にある倉庫。

 スクラップ、廃材。巨大な重機が置かれた資材置き場にバリアが張られていた。

 そこへ待ち構えるは、ジャンク獣とその傀儡の白虎。

 ほむらは意識を失った状態で、ジンを待っていた。

「君一人?」

 そこに鬼の形相を浮かべたジンが現れた。

「その感じから察するに、姉さんはアナタを修理して逝ったか」

 着てる制服はボロボロで薄汚れているが、肉体はとても綺麗であった。完全回復したジンがそこにいた。

 ボロリ。白虎の右目から涙が零れ落ちる。

「……い、いやっ姉さん姉さん姉さんッッ……」

 右半身が、ジンの身体に手を伸ばす。

「ハハハハハ死んだか。お前が殺したのか地球人よ」

 左半身は口角を上げて宴を楽しむ。

「玄武、今からお前の妹を救う」

 ジンは懐から携帯電話を取り出した。

「気でも狂ったか下等生物が」

「一つ教えてやるよ。俺に抱かれて玄武はイッたぜ」

 携帯を突き出した。

 液晶画面に映るは、少女姿の玄武。

「コネクト・玄武・インサート!」

 武装のキーワードを叫ぶと、玄武のコアがインストールされた携帯を腹部に押し当てた。

 ジンの瞳が機械生命体の様に赤く染まった。

 パキッと乾いた音がする。

 携帯の背面と真横の隙間から、無数の黒い触手が吹き出すと、ジンの身体に絡みつく。


 あれは何だと、ジャンク獣は思った。

 外見はジンだが、体内から感じる波動は玄武のものだ。

 地球人が、我らの協力無しに力を操る。

 有り得ない。

 ならば玄武が脳を奪った。

 違う。

 確かにあの紅の瞳は機械生命体。だがその奥に、漆黒に染まる鋼の意思が見える。

『殺せッッ白虎ッッ!』

 野蛮で好戦的な地球人が、破壊の力を手に入れた。

 それは新兵器の誕生と同義。

 そんな事あってはならないのだ。

 ジンの肉体に融合した黒い触手が、装甲へと形変えていく。


「させるか!」と、獣に命じられるままに白虎は、爪を突き立てた。

 ギィィン。硬い金属音が鳴る。

 尻から伸びる黒い尾が、攻撃を弾いたのだ。

 その姿はある獣を連想させた。

 フルフェイス型の頭部(ヘルメット)。前方へ大きく突き出したバイザーからは、つり上がった赤い瞳と、口角が大きく裂けた顎が見える。

 肉体と融合し一体化した黒い鎧は細かいパーツが重なり合い、先端が鋭く尖っていた。

「……神狼……」

 白虎は無意識に呟いた。



『ジン。行けるか』

「あぁ」

 手首をスナップさせ具合を確かめると、大きく踏み込んだ。

 アスファルトが砕け、土煙が舞う。

『アームズ化して変わった感覚や力は、こちらでコントロールする。お主はいつも通り行けッ!』

「うらぁ」

 ジンは尻尾を引き抜く。尾は巨大な斧へと変わった。

「ウルフ・トマホークッッ!」

 風を切り裂き、白虎の首を狙う。

「チッ」

 舌打ちし、後方へ回避。

「ならこちらは」と、白虎は右腕部を刀に変化させた。

 斧と刀が激突し、ぶつかり合う。

 硬い音が静寂するバリアー内に、鳴り響いた。

 ギィィン。

 白刃が砕け落ちる。

「終わりだッ!」

 ジンは一気に距離をつめ、胴体へフルスイング。

「なめるな。私の刀は一つではない!」

 刀へと変化した左腕で受け止めたが、刃に亀裂が走る。



 それでも構わなかった。動きを止めるのが目的だったからだ。

「牙ッ!」

 斧に足を載せて踏み台にすると、右膝をジンの顔面に叩きつけた。

 吹き飛ぶバイザー。

「ぬっ」

 剥き出しになった顔に、刃が伸びた左膝で間髪入れず襲いかかる。

『ジンッッッ!』

 ガキンッッ!

「あふにぇ(危ねぇ)」

 刃を強靭な顎で咥え防がれた。

「おのれぇぇ!」

「うるせぇぇッ。てめぇにくれてやらぁぁ!」

 噛み砕かれ、頭突きのプレゼント。

 重い一撃。二人のヘルメットは破壊され、素顔が外気に晒された。

 意識朦朧とし倒れた白虎の上に、ジンがのしかかる。

「おらッ」

 ズキュュン。唇を重ねてきた。

「……! な、何をする……んんっ」

 白虎は、口内に挿入し蠢く舌の感触で薄れる意識を取り戻す。

「は、離せ……っんっ」

 ジンから離れようと、もがく。

(ジッとしておれ)

 姉の声が体内から聞こえた。

「ふんっ!」

 ジンが唇を離すと、ナニかを咥えていた。それは鉄クズで出来た脈打つアクゥの生体パーツだった。

「おげぇぇぇぇぇええええええ」

 吐き気を催した白虎は、天に向かって嘔吐する。噴水のように鉄、ネジ、パイプ等が混じり合い溶け合ったジャンクを吹き出した。


「はぁはぁはぁはぁはぁ……んっ……ありがとうジン殿、姉さん」

 全てを出し切り、支配から逃れた白虎は正気に戻る。

「あらりゃ」

 装甲が剥がれ落ちたジンが倒れこんでくる。

 ぼよよよんんんんんん。

 たゆゆんたゆゆんと揺れ動く、スライムの様に柔らかい白虎のおっぱいが、しっかりと受け止めた。

「ジン殿! しっかり」

「ナノマシンが足りないのだ」

 剥がれた装甲は元の触手となり携帯に吸収される。生体コアと融合し玄武は再生した。

「……まさか」

 白虎は自らの身体に触れた。

 痛みを感じない。あれ程のダメージを追っていた肉体が綺麗に治癒しているのだ。

「そうだ。ジンの体内に常駐するナノマシンは今、お主の身体の中だ」

「あああっあぁぁぁ」

 ぽろりぽろりと涙があふれ、ジンを強く抱きしめる。

「何故だ。何故私なんかの為に命をかける! 君を殺そうとしたんだぞ!」

「……助けてって言っただろ? ダチが困ってたら身体を張るだろが……」


『よくやった白虎よ、もう貴様の役目は終わった。姉妹共に虚無へと帰るがいい』

 ジャンク獣は、白虎を本心から称え賛辞を送る。

 触手をプロペラの様に回すと、浮上。

 近くにあった重機の上に着地すると、触手を吐き出した。

『接続・巨神形態!』

「姉さん達は休んでいて」

 胸の上でハアハアハアハアと喘ぐジンの額にチュッと口づけし、立ち上がった。

「コネクト・ギガンテック」

 白虎の体は白銀に輝く巨大な球体となり、重機を取り込み一体化したジャンク獣の元に行く。

「ジュワッッツッチッッ」

 球体が弾け具現化するは、白銀色の虎型の巨大四足ロボ。

 しなやかな柔軟性のある体躯に、四肢には三本爪が生える。蛇腹刀で出来た刀を揺らし、空を駆ける。

 ギガンテック・白虎であった。

「よくも私の体を好き勝手にしたな。もう少しで姉さん達をこの手で……」

『俺が憎いか白虎よ。ならばかかって来い』

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