第7話 Iunctio(2)

 学校近くの公園に玄武を呼び出す。事情は粗方説明したが、未だに白虎は疑心暗鬼であった。

 無理もない。初対面の、しかも宇宙人。育った惑星が違う異邦人(エイリアン)の言う事を誰が信じようとするか。

 それでも公園まで付いて来た。それだけでも良しと、ジンは前向きに考える事にした。

 玄武に会わせてやりたかった。体内のナノマシンによって、彼女の記憶を夢の形で共有し知った五姉妹。

 

 長女の青龍、次女の玄武、三女の白虎、四女の朱雀。そして末っ子の麒麟。


 この辺境な惑星で一人ぼっち。どんなに心細いかジンに想像すら出来ない。

 昨晩自分を小さな胸で強く抱きしめ、気づかれない様にして泣いているのを知ってしまった。

 だからこそだ、奇妙な縁に寄って結ばれた彼女の喜んだ顔を友人として純粋に見たいのだ。

 玄武は可憐の店を手伝っていた。許可を貰いここに来る。距離的にそろそろ着く頃だ。

 ドウッ。

 腹の底に響く重低音が遠くから聞こえてくる。あのエンジン音は可憐のバイクに間違いなかった。


「すまぬ待たせた」

 長い黒髪を耳の下で左右に縛り、黒いジャージ姿の玄武が到着し、はにかむ。

「ね、姉さん」

 白虎は涙をポロポロ流し、姉の胸に飛びこんだ。

「白虎無事で良かったよ」

 喜び泣き、抱き合って再会を喜ぶ二人。ジンの心は穏やかな気持ちで満たされた。

「姉さん……その姿……」

 自分よりも小さくなった姉の背丈と乳房に困惑する白虎。

「彼の言うことは、真実なのか……」

 顔色は血の気引き青ざめ、たらたらたらと額から汗をかいている。

「ジンそれどうした!」

 唇が裂けて赤黒く腫れている事に玄武は気づくと、急いでジンの元へ向かう。

「何があった?」

「ね、姉さんそれは」「転んだ」

 白虎の告白をジンが声を被らせ、黙らせた。

「バナナの皮でドーンって」

 黙ってろと目で諭す。

「意外だな、どれ」

 背伸びして、ちゅっと口づけ。

「ねねねね、姉さん!?」

 たちどころに唇の傷は消え腫れは引き、綺麗に皮膚が再生する。

「傷を、舐めればよくねぇ」

 未だこの手の行為に慣れず、恥ずかしさから視線を逸らした。

「カカカ、照れるな照れるな」

「こんな使い方想定外だ。まさかナノマシンの力が地球人にも有効だとは……君の肉体に不具合はないのか?」

「んっ特にないな、こうして玄武に治療してもらわないと自分では治せないし」

「通常は均衡を保っている状態か……」

「どうした白虎?」

 妹の気配少しづつ変わっていくことに、玄武が気づく。

『……成る程、理解した』

 白虎の口を使い、何者かが語りだす。

 顔を見合わせるジンと玄武の脳内で、警報が鳴った。

「敵か! 何処にいやがる!」

「白虎?」

「う、うぐぅぅぅぅぅぅ!」

 苦痛に顔を歪ませ、腹を押さえる。

「た、助けてぇぇ姉さん」

 おぇぇぇぇぇぇと、大量のネジや歯車、パイプ等、腐敗し錆びた吐瀉物を吐き出し大地を汚した。

「アクゥか!」

「白虎ぉッッ!」

 ジャンクを組み合わせて造られた歪な触手が、白虎の足に絡みだす。

「うわぁぁぁぁぁぁぁッ!」

 玄武は妹を救おうと、腕を伸ばす。

「駄目だ! お前まで寄生されるッ!」

「落ち着け、頼むから落ち着いてくれ」と、玄武を背後から押さえ込んだ。

 触手に飲み込まれていく白虎。その瞳に生気が感じられない。

「来るッ」

 白虎を完全に飲み込んだ吐瀉物の塊から、殺気が放たれる。

 玄武のセンサーが素早く感知すると、ジンを抱きしめ後方へ飛ぶ。

(狙いは俺か!)

 大木の影に下ろされ、玄武は自分を守るためにジャンク獣の前に立ちふさがった。

「おいっ武装しないのか」

「…………」

「玄武ッ!」

「わかっている。少し黙っててくれ」


『くっくっくっ、妹を人質に取られて戦えないか』

 イソギンチャク型の姿へ変化した獣の頭上から、ぷしゅっと空気と共に白銀色の装甲を纏う少女が排出された。

 フルフェイスの頭部に猫耳型の角。ワンピース型の鎧に肉球が付いた手甲。武装化したその姿は虎を連想させる。

「び、白虎……」

「アクゥに逆らう愚か者たちめ」

 バイザーのスリットから覗く赤き瞳が不気味に輝いた。

「ハァァァァァッッ!」

 手甲から伸びた三本の爪が、頭部を襲った。

「くっ」

 玄武は横転して回避するが、完全にはかわしきれない。

 頬に痛々しい傷が入る。

「その地球人が姉さんの生命線……排除する」

「させぬ!」

 大地を踏み込み、突き出す拳が白虎の胸を狙う。

「効くか。生身の拳なんて!」

 白虎は左膝を突き上げる。膝からは刀が伸びていた。

「ぬぅっ」

 体は生身。突き刺されば致命傷となる。半身を真横にずらしギリギリでかわす。

 ぷっつんと髪の毛を縛るゴムが切れた。

「もらったァァッッッ!」

 その動きを予想していた白虎は、右足回し蹴りの一撃を放った。

 ガツンと骨が軋む音が響く。

「ば、馬鹿!」

「……貴様……」

 ジンが玄武を庇い、額で攻撃を受けていた。

「うらぁっっっ!」

 血を撒き散らしながら、頭突きを白虎の顔面に叩きつける。

 勢いに押された彼女は膝をついた。

「バカ、お主を守る為に我は」

「馬鹿はお前だ。戦え。じゃないと誰も守れないぞ……」

 反撃はここまで。膝から崩れ落ちていく。

 ジンは手を伸ばして、額から流れる血を玄武の唇に塗り大地に沈んだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます