2章 白虎

第6話 Iunctio(1)

 くちゅくちゅくちゅ。淫靡な音が室内から響いた。照明を消した部屋に街の灯りが入り込む。

 ベッドの上で少年と少女が交じり合っていた。

「んっ、もっと舌を出して」

 どうしていいか分からず受け身の少年に対して、少女は積極的に行為を楽しんでいた。

 少年の名前は黒鋼ジン。少女の名は玄武といった。


 可憐の経営するショットバーの二階に、ジンの部屋がある。

 照明を消しカーテンを開くと、繁華街の毒々しい光が室内に侵入してくる。

 時計の針は午後十一時半を指していた。

 約束した時間から少し過ぎて、待ち人は現れた。

「すまぬ。シャワー浴びていた」

 黒髪濡らした状態で、ジャージ姿の玄武がジンのベッドに腰掛ける。

「…………」

 ジンはバスタオルを持ち、背後に座ると黒髪を優しく吹き出す。

「おぉ」

 玄武は歓喜の声を出し、瞳を閉じる。

「なぁ、濡れてるの気にならねぇの?」

「ならぬ」

 ジンの手で拭いてもらうのが心地よいのか、うっとりとした表情で笑みを浮かべている。

「ジン、体は大丈夫か」

「あっ? 健康優良少年ってやつだ」

「健康不良少年の間違いだろ」

 カッカッカッと豪快に笑いジンを潤んだ瞳で見つめると、か細い力でそのまま押し倒した。

「この姿のままでいいの?」

 チラリと胸元から小さな蕾が覗く。下着をつけていない。少なくとも上は外していた。

「べ、別にいいんじゃねぇ」

 ジンは恥ずかしそうに視線を逸らす。じわりじわりと股間が熱を帯びていく。

「……では過剰になったナノマシンの回収を始める」

 痛いほど脈打つ陰茎が玄武の下腹部にめり込むが、彼女は気づかないのか顔を近づけてくる。

 ちゅっ。

 唇と唇が軽く触れ合う。

「そんなに緊張しないで。治療に使わなくなったナノマシンを回収するという事は、それだけ人間に戻れるということ……だから、ね」

 はむぅ。

 口調は優しく、唇は強めにジンの下唇を吸う。

 ぴちゃぴちゃ。唾液からナノマシンを吸収するために、わざと官能的な音をあげて舌を啜る。


「んっ、もっと舌を出して」

 甘えた声、官能的な体の動きにジンは体を震わせる。

「いいよ。辛いよね」

 耳元で囁かれ、震えが治まるまで強く抱きしめてきた。


 誰かに見られている。ジンは何者かの気配を感じながら、学校に向かっていた。

 家を出て直ぐだ。首筋にチリチリと気配を感じた。後方を見ると、眠そうなサラリーマンや学生達が足早に目的地に向かって進んでおり、その中から探すのは不可能だった。

(ジョーカーか、あるいはアクゥか……)

 心当たりはそれぐらいしかないが、ぶつけられる気配に殺意は感じられない。

「どうしたの?」

 腕を絡めて一緒に歩く、ほむらが不安気に聞いてくる。

「何でもねぇよ」

 殺意じゃない以上敵ではない。ジンは無視する事にした。


「…………」

 消えない。授業中も昼休みも、そして放課後も。

 同じ学校の人間なのか。流石に一日中この状態は心が落ち着かない。

「ジン?」

「ジンちゃん?」

「用事思い出した、先に帰ってくれ」

 友人の犬飼巧とほむらにそう言い残すと屋上に向かい、屯する生徒達を一人残らず追い払う。

「ちっ」

 それでも気配は消えない。自分以外誰もいないココに、誰かがいるのだ。

「おいっ出てこいよ」

 ざわり。首筋の産毛が逆立つ。気配が針のような鋭い殺気に変化し、全身に突き刺さっていく。

 空から少女が堕ちてきた。

 

 トンッ。

 目の前に猫の如く優雅にしなやかに着地を決めた彼女の髪は、白銀のボブカット。毛先が耳たぶを覆っている。

 ワンピース型の白いボディースーツを纏う褐色肌の少女の可愛い顔は、玄武を連想させた。

「……白虎……」

 夢で見た。自然と名前を口ずさむ。

 刹那、鞭のようにしなる足で足首を叩かれる。

「痛ッ!」

 間髪をいれずに膝が金的を狙う。

「ひっ」

 尻の穴が恐怖で縮み、ゾクゾクとした快楽が背筋を走り抜けた。

 両掌で膝を受け止め、その力を利用してジンは宙を舞う。

 クルリと後方へ回転して足を揃えて着地する。

「マジかよ。シャレになってねぇぞ。お前、玄武の妹だろ」

 困惑。怒り。恐怖。

 嫌な汗が流れだす。

 ジンは左半身を手前に両腕をあげて構えた。指は軽く握り踵を浮かす。

 これでどのような攻撃にも対処できる。

「少しはやるみたいだね」

 白虎は笑みを浮かべ距離を詰めていく。

「しゅっ!」 

 飛んでくる膝蹴りを体さばきでかわす。

「おらっ!」

 わき腹に回し蹴りを放つが空を切る。地面ギリギリまで体を下げたのだ。

(この動き人間じゃねぇ!)

 グッと軸側の足首を掴まれ強く引かれる。

「しまった」

 バランスを崩し転倒。その隙に白虎は体勢を立て直した。

「クソッ」

 起き上がろうとするジンの頭部を狙う回し蹴り。

「そんな大技ッ!」

 ガードを固めようとした瞬間、視線に飛び込むはスカートの中。三角の形した禁断の花園であった。

「純……白」

 視線が釘付けになり防御するのを忘れてしまう。

 メキャッ。激しい衝撃で脳が揺さぶられ、意識が消えていく。

「教えろ地球人、なぜ君から姉を感じる?」 

 赤い瞳で白虎は見下ろすが、ジンはぐったりとして動かない。口から魂が抜けようとしていた。

「……おいっ……しまったやり過ぎたか」

 

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