第5話 Anfang(終)

 叩いた。叩いた。また叩いた。

 ジャンク獣の頭部をひたすら掌底で叩きつける。

「……」

 獣はガードを固め、淀んだ目で睨んでいる。瞳の中に青く燃える炎が見えた。諦めたわけではなく、反撃のタイミングを企んでいる。そんな不気味な輝きを放っていた。

 攻撃の反動は周囲の建物をも揺らす。一つ一つにバリアを張っている為に壊れることは無いが、振動だけは伝わってしまう。

「ひぃぃぃぃ、お助けぇぇぇ」

 建物の中にいた一人の白髪の老人が、異形なる巨神同士の戦いに精神的疲労が限界を超え、外に飛び出してきた。

「くっ、マズいぞ、ジンッ!」

「いっひっひっひっ」

 このタイミングを狙っていたのか獣は笑い、八つの腕をジンに向けた。

 掌から噴き出されるは、白い糸。

 絡みつく糸が上半身を拘束する。

 引きちぎろうと力を込めるが、重なり合う糸の耐久性は想像以上に強固でビクともしない。

「ひゃっはっはっ無駄無駄だぁぁ 俺の力を思い知れぇぇ」

 獣は歓喜の声をあげ、真横に腕を動かした。

 両足を開いて抵抗するが、地面がその踏ん張りに耐えきれない。ズルズルズルと砂埃を上げて足場が崩れていく。

 バランスを失いギュンと勢いよく機体は浮き上がると、大地を地震の様に揺らし倒れこむ。

「ぎゃああああぁあああぁああ」

 悲鳴が聞こえた。

 吹き飛ばされた巨神の近くで、老人は小便を漏らし気を失った。

「んんんんん、外れたか」

 悔しそうにパチンと指を鳴らした。

「……あのジャンクを構成する部品の中に地球人がいる。マズい獣を倒せば中の人間も只ではすまない。人質のつもりか……アクゥ」

 バキンバキンバキン。激しく奥歯を噛み締めたジンの形相に悪魔が宿る。

「あのお年寄りを潰そうとしたか、俺を使ってッッッ!」

 脳裏に浮かぶは空から堕ちてくる、玄武ギガンティック。

「舐めてんじゃねぇぞ三下がッ!」

 上半身を糸で拘束されたまま、あざ笑う獣に襲いかかる。

「まてジンッ! あの中には地球人がいるんだぞ!」

「うるせぇッ! ソイツの意思で獣を動かしてんだろ! 俺みたいによ!」

「確証はない。それに万が一そうだとしても、お主に人を殺めさせる事はできぬ……グッッ!」

 また糸を強く引かれる。今度は抵抗すら出来ずに空に浮き、逆さまの大地を見た。

 ズンッッ。巨神は再び地面を舐める。

「舐めたのは貴様の方だったな玄武」

 ひゃっはっはっは、腹を抱えて獣は笑う。

「糸……ちっ」

 叩きつけられた衝撃でやっと冷静さを取り戻すと、拘束する両腕を睨んだ。

「無駄だ。姉妹がいない貴様は無力……あんっ?」

 巨神の尾てい骨から伸びる尾が、ユラユラと蜷局を巻く。

「玄武、痛覚遮断できるか?」

「勿論」

「なぁんだその尾は、ほらほら攻撃してみろ」

 小馬鹿にして顎を突き出す。

 シュン。風が鳴り真っ黒いオイルが獣の顔を汚した。

「ば、バカか貴様ッッ!?」

 尾が攻撃したのは巨神の両腕であった。

 噴水となって傷口から黒いオイルが吹き出る。

 胸に下腕部がくっついた状態で力を込める。

 みじりっみじりっ。傷口が少しづつ裂けていく。

「貴様正気か」

「オラッッッッッ!」

 上腕部を引き抜いた。

「狂ってやがる」

 無意識に体が後方へと下がる獣をジンは逃がさない。

 欠損してる肘。そこから飛び出ている骨。折れて先端鋭利に尖るソレを、蜘蛛型の頭部に突き刺した。

「……殺らなきゃ殺られるんだよ……」

 ジャンク獣は沈黙する。



 フワフワと空に浮かぶ二つの物体があった。

 その物体はジン達の戦いをバリアの外から傍観していた。決して外側から見ること出来ない不可視の結界をである。

 一つは機械で出来た犬。ネジや鉄クズ等、ジャンク品を使い急造で作った為にアンバランスな姿をしたアクゥであった。

 そしてもう一つは人だ。見た目中学生ぐらい美しい少女。金色の髪は二つ結びのツインテール。眠そうな表情。半目で不機嫌そうに口はへの字の形をしている。

『あれは玄武ではないのか?』

 自分の記憶にある彼女の戦闘と今の戦闘が違い過ぎる。

 外見は同じだが中身がまるで別人の様。

 一人の少年の姿を思い出す。

「…………」

 アクゥの問いかけに少女は答えない。

「まぁいい。別に答えは求めていない」

 アクゥは牙を見せて人の様に笑い、少女を連れて去っていく。



「ひ、ひぃぃあああぁああ」

 崩れ落ちたジャンク獣の残骸。蛹の形した生体パーツの中にいた少年を、人の姿に戻ったジンが引っ張り出した。

「わかってるな……じゃないと次はマジで殺すぞ」

 悪運はもう続かないと、ジョーカーの少年を脅した。

「じ、自首するよ……罪を償う……勘弁してくれぇぇぇ」


 むしゃむしゃむしゃむしゃ。少女姿の玄武は残骸の中から生体バーツを見つけると、喰っていく。

「これで少しだが補えた。世話になったなジン」

 唇を拭い頭を下げる。

「玄武?」

「使命を果たす。街の闇に潜むアクゥを捕らえる」

「また奴が現れたら? 今喰った分でギガンティクになれるのか」

「…………」

「力を貸すぜ、この街にいる家族や友人達を守りたい」

「ジン……ありがとう」

 二人は笑みを浮かべ、強く握手を交わした。



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