第3話 Anfang(3)

「我は宇宙の平和を守る銀河連合のエージェント。地球とは別の進化を遂げた聖世界の機械生命体だ。同族の裏切り者、アクゥを追って地球に来た」

「機械の生命体?」

「姉上殿は二人と共に。ここなら安全だから」

「う、うん」

 可憐は周囲を覆うバリアと同じものが、自分達にも張られている事に気づいた。


「今度こそ破壊してやるぞアクゥ!」

 全力疾走。三人から離れる。

「コネクト・アームズ!」

 玄武は叫び、空高く飛んだ。

 一瞬で肉体を黒い装甲が纏う。

 フルフェイス型の頭部に外皮骨格のボディー。手足の指先には鋭い鉤爪が生えていた。

「セイハッッ!」

 宙でくるりと一回転。アクゥのジャンクボディーに飛び蹴りの一撃。

「オラオラオラオラ!」

 着地と同時に頭部へ拳の連打。

「セイッ」

 前足を抱え込みと地面に放り投げ、タイミングを合わせ顔面を蹴飛ばす。


「す、凄い」

 可憐は人を超越する玄武の動きに驚きの声を漏らす。


『く、く、く、何をそんなに焦っている』

 アクゥはダメージが無いのか起き上がると、無機質なボイスで玄武の胸中を察し嘲笑う。

『俺が恐ろしいか? 姉妹と離れ辺境の惑星で一人。心細かろう』

「ハッ、笑止。貴様こそ、その寄せ集めのジャンクで我の前に立ちふさがるか。片腹いたいわ」

 ピシッピシッピシッ。

 アクゥの身体を支える関節に亀裂が走る。

『ぬぬっ、まさか最初からこれが狙いか!』

 にいっ。口角をつり上げる。

 ダンッ。大地を踏み込み全体重を乗せたシンプルな突きが、アクゥのバーツを吹き飛ばした。

 残されたのは犬の頭部。その中にアクゥがいる。

「トドメだッ!」


「うぐぅぅぅぅぅぅぅ!」

 ジンの苦痛の声と、可憐の悲痛なる叫びがバリア内に響いた。


 ジンは胸をかきむしり苦しそうに呻いている。

「バーツが足りないか!」

 戦いを止め、慌ててジン達の元に向かった。

 緊急性がある許せと、自らの手首を切り裂き背中の傷に手を差し込む。

 ドクンドクンドクン。ナノマシンで構成されている血液が、ジンの体内に流れていく。

「…………」

 可憐は黙って見ているしかなかった。

「……げんぷ……姉貴……」

 土気色だったジンの顔も元に戻り、意識を覚醒させた。

 二人の傷も完全に治癒している。

「アクゥは?」

 ジンに言われて後方に視線を送ると、散乱したジャンクの中に奴はいない。

「逃げたか……」

 玄武は少女の姿になると、悔しそうに下唇を噛んだ。


 ジンは夢を見ていた。それは身体を共有する彼女の記憶であった。

 轟。大気圏を抜け広がるは蒼い大地。アクゥと激戦を終え疲労で玄武は巨神形態(ギガンテック)のまま気を失っていた。


「…………」

 意識を覚醒させる。

「…………ここが地球か……ッッッ!」

 掌が血で汚れていた。


『そうか……これで俺は……』

 怒りの感情は湧かなかった。只、その事実を受け入れる。

 ごめんなさいと、泣きくずれる彼女を見て攻めようという気持ちになれなかったのだ。


 巨神形態から人型に戻ると、泣きながら抱きしめる。

「ごめんなさい……ごめんなさい……ごめんなさい……」

 身体から触手が現れ、ジンを優しく包み込んだ。

「……わたしの生体パーツをお主に渡す……」


 ジジジジッ。

 携帯のアラームが鳴り、ジンは緩やかに現実の世界へ帰っていった。


「ジンこんな早くにどこに行くんだ?」

 玄関で靴を履いてると玄武に声をかけられた。

「家に一旦寄ってから学校だ。しばらく俺もこっちに泊まるから帰り荷物持ってこないとな」

「……そうか……」

 それだけ言って口ごもる。

 ジンを殺したことに責任を感じ、どうやって償えばいいのかとそんな表情を浮かべていた。

「気にすんな、あれは事故だ。お前は悪くねぇ」

 笑い、サラサラな黒髪を撫でた。



「ジンちゃんジンちゃん」

 道端に唾を吐きながらダルそうに歩道を歩くジンに、ほむらが近づいてくる。

「おぅ、昨日はお疲れ」

「無事だったのね。よかった~」

 ぴょこんと、隣りに並び自然に腕を組む。

「連絡したのに、返事ないんだもん」

 プンプン。頬を可愛く膨らまし、上目使いで睨んだ。

「悪りいな、ハードラックとワルツし(事故っ)ちまってよ」

「えっ怪我は大丈夫なの?」

 ガンッガンッ。突如、衝撃音が聞こえ、「危ねぇなラリってるのか」と、登校中の生徒達から怒声が上がった。

「えっ?」

 歩道に乗った一台の車が、ものすごい速度でこちらに突っ込んでくる。

「ほむらッ」

 幼なじみを突き飛ばし、ジンは荒ぶる津波に飲み込まれた。

「きゃあぁぁぁぁぁジンちゃん!」

 車はジンを踏み潰し電柱に激突し止まった。ブゥゥゥと、クラクションの音が不気味に響き渡る。

 運転席が開き、頭部に包帯を巻いた少年が大急ぎで逃げだした。

「お前昨日の! 待てコラッ!」

 鬼の形相でキレたほむらが一瞬追うが、すぐに車体の下に向かった。

「ジンちゃん!」

 ギギッ。甲高い金属音が鳴り、車がひとりでに後ろに移動する。

「えっ……」

 車体の下からジンが顔を覗かせる。

 全くの無傷の状態で立ち上がり、両手をじっと見つめてるジン。

(ナノマシンの力か)



「ひひひっ、やった殺した。ざまあみろ」

 昨日ジンに殴られた少年が粘っこい笑みを見せながら逃走してると、突然目の前に現れた少女と犬に行く手を阻まれた。

「なんだ。お前?」

 金髪の毛にツインテール。中学生ぐらいの美少女が半目で見つめてくる。

「ひひひ」

 素肌にボディーペイントの姿に股間を膨らませ、上から下を舐めるように眺め生唾を飲み込んだ。

「何だ犯されたいのか」

「…………」

 少女は口を開かないが、『地球人は実に好戦的で興味深い』と代わりに金色の瞳をした犬が話しかけ、近づいてくる。

「い、犬がしゃべったッひっひぃぃぃ」

 パカッと犬の顎が開くと触手と機械の蜘蛛を吐き出し、少年を飲み込んだ。



「ジンちゃん病院行こ、ねっ」

(この音は)

 ジンの脳内で感じる警報音。

「ジン!」

 玄武がスクーターに乗って近づいてくる。

「あれ可憐さんの……誰?」

「いとこだ」

「ほむら。お前は学校に行け、俺はアイツと病院にいく」

「う、うん」

 運転をジンが変わり、玄武は後ろにしがみつく。

「(アクゥだ、すまぬ協力してくれ)」

「わかってる。しっかり捕まっとけよ」

 アクセルを回した。


「怪獣だッ」

「逃げろッ」

 立ち並ぶビルの隙間から、蜘蛛の頭部をした人型のロボが見えた。

 人々は、こちら方面へ逃げてくる。

「いかん! ギガンティク形態か! バリアを張る」

「止まるから、ちょっと待て」

「いや時間が惜しい。進め」

 玄武はジンの股間に手を伸ばした。

「痴女かッ!」

「違うわバカ。これなら止まらずでも補給できる。お主は運転に集中しろ。全速力で近づけ!」

 小ぶりの乳をギュッと背に押しつけ、両手でサワサワサワと優しく、いまいち反応が悪い股間をスラックスの上から撫でる。

「今は貧乳だが、本来のおっぱいはすんごいぞ」

 耳元で囁いた。

 脳裏に浮かぶは昨日の玄武の姿。

 ぷるんぷるんぷるん。ゆっさゆっさゆっさ。

 無敵。

 完全無欠。

 空前絶後のおっぱい最高です。

 ぎゅぃぃぃぃん。

 一点に集まるは体内を構成している、ナノマシン。

 それがタンパク質と共に、ドロリと排出される。

「集中でき……る……かッ……くそッ……」

 快楽に負けた体を悟られないように、悪態をつく。

「…………」

 玄武は優しく笑みを浮かべ、気づかないふりをしていた。


「ここまで近づけば、奴をバリアに閉じ込められる」

 指先に絡みつくタンパク質を、ペロリと最後の一滴まで飲み干した。



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