第74話ようやく地上へ
ついにカシアの体は地上に飛び出る。
青い空に白い雲、緑豊かな森。いつもの見慣れた光景がカシアに力を与えていく。走り続けた疲れも嘘のように楽になり、身軽な体が戻ってきた。
「よし、早く繭のところへ行かないと……」
両手でエナージュの杖を持ち、数歩カシアが走り出した後、洞窟から大きな影がヌッと現れた。
「待ちやがれ人間! よくもオレの杖を奪ってくれたな。許さんぞ!」
洞窟から出てきた瞬間、ソルがカシアへ突進してくる。
地上に出ればこっちのものだ。
即座に魔法で高く浮き上がり、ソルの攻撃を避ける。
勢いあまってソルが前に体勢を崩す。無防備な背中がカシアに向けられた。
(よし、今の内に!)
カシアの手から火の玉が、五個、六個と続けざまに飛び出す。
全弾、ソルの大きな背中を焼いた。
しかしザコとは違う、魔界に領地を持つ魔王。焼けたのは服だけで、肌どころか体毛すら焦げていなかった。
ソルがギロリと目を剥き出し、カシアを見上げる。
「その程度の力でこのオレを倒そうとは、笑えるな」
ニッと牙を見せて笑い、ソルは地を蹴る。
大きな体躯に似合わぬ速さでカシアへ迫ってきた。
魔法が間に合わない。
咄嗟に判断し、カシアはシルフィーの剣で応戦しようとする。
キィン――ソルの鋭い爪が繰り出され、カシアの短剣をかする。
その力に押され、カシアの体が地へ落ちた。
「くっ……!」
地面に直撃する寸前、カシアは結界を張って衝撃を抑えた。
だが結界ごと体が上へ弾み、仰向けになってしまった。
すぐにカシアはその場から離れようと、体を回転させて横に退く。
直後、 ソルの足が着地し、かろうじて踏み潰される事態を回避した。
カシアは起き上がって距離を取ろうと、後ろへ跳ぶ。
ソルに目を向けると――その手には、いつの間にかエナージュの杖が握られていた。
「この野郎、その杖を渡しやがれ!」
「誰が渡すか。オレの邪魔をした他の人間も、魔物もぶち殺してやりたいが、まずは手始めにお前を血祭りに上げてやる!」
再び迫ってきたソルを、カシアは上に浮かんで避けようと試みる。
しかし、その動きは読まれていた。
カシアの動きに合わせて、ソルはその場を跳躍していた。
ソルの巨体が、カシアを真っ直ぐにとらえて接近してくる。
(しまった、逃げられな――)
カシアは身を守ろうと腕を交差し、覚悟を決めた。
風圧がこちらへ届いた時、
「甘いな、この三流魔王」
聞き慣れた声。
カシアの襟首が後ろへ引っ張られる。
そして鮮やかな一太刀が、杖を持つソルの腕を切り落とした。
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