第62話間一髪の三人衆

 いくつか山を越えた後、急にレミュアが立ちどまり、低いうなり声を上げた。

 シャンドや魔物たちに緊張が走り、辺りを警戒し始める。


「ど、どうしたんだ?」


「姐さん、敵が近づいている。用心するのだ」


 素早く目を動かすと、シャンドがレミュアの前へ出た。

 次の瞬間、木の上を掻き分けながら、長髪の巨人オーガたちが現れる。その手には己の身の丈と同じくらいのこん棒を持っており、一行を見た途端に襲いかかってきた。


 ガーコイルたちやシャンドが応戦していると、今度は背後が騒がしくなり、カシアは後ろを振り向く。

 いつの間にか後方にもオーガが数匹現れており、レミュアから降りた魔物たちが飛びかかっていた。


 援護しようとカシアは手をかざし、火の玉を作ろうとする。が、出てきたのは小さな灯火だけで、少し前に飛んで消えてしまった。


(ヤバッ、こんなに魔力も弱まるのか。迂闊に動けないな)


 どう動こうかとカシアが頭を働かせていると、大きな影がカシアを覆った。

 真上を見ると、そこには大きな黒い翼を羽ばたかせた、人の体と鳥の顔をした異形の者がこちらを見下ろしていた。


 他の魔物とは比べ物にならない威圧感をカシアは覚え、彼の者が魔王なのだろうと察する。


「余所者め、我が領地になんの用だ? しかもそんな美味そうな人間を連れてくるとは……」


 じゅるり、と嫌な音が鳥魔王から聞こえてくる。

 次の瞬間……シャンドの返事を待たずに鳥魔王が長剣を抜き、カシアへ迫ってきた。


(自分の身は自分で守らないと! あんなヤツに食われてたまるか)


 カシアはシルフィーの剣を抜き、攻撃に備えて構える。

 血走った目が間近になった時、カシアの背筋に悪寒が走った。


 今の力で敵う相手ではない。

 そう悟ってしまったが、逃げてたまるかとカシアは鳥魔王を睨んで挑もうとした。


 剣が交わろうとした時――。

 ――巨大な氷塊と、木々を切り刻む旋風、そして大きな一太刀が同時に鳥魔王を襲った。


(ど、どうなってるんだ?)


 カシアの大きく見開いた目へ、黒い羽根と鮮血が辺りへ飛び散り、無惨に鳥魔王の体が地へ落ちていく様が映る。

 気づけばカシアの前に、見慣れた背中があった。


「まーったく、本当にお前さんはロクなことをしないな」

 ランクスは小さく肩をすくめると、レミュアの背を蹴って後ろへ回り、オークに挑んでいく。


 どうして魔界にランクスが?

 カシアが困惑して後方を見つめていると、「離れなさい」という声に続いて奥から業火の渦が現れ、一気にオークを焼いた。


「オーク相手じゃあ金になりませんね。こいつらは金目の物なんかに縁はないですから」


 森から現れたのは、あからさまにつまらなさそうな顔をしたエミリオだった。

 この二人がいるということは……。


 カシアが前方に向き直ってみると、いつの間にかオークは全て地面へ寝転がっており、その中央に槍を手にしたリーンハルトが立ち臨んでいた。


 慌ててカシアがレミュアから降りると、三人はこちらへ集まってくる。

 彼らの思いを代弁するかのように、ランクスがカシアの額を爪弾いた。


「勝手に突っ走るな! 村に来た時から成長してねぇな」


 額に走った痛みに思わず手を当てつつ、カシアは手を震わせてランクスたちを指さす。


「な、なんでアンタらがここに?」


「魔物たちに杖のありかを調べさせるだけで終わらないだろうと思ったから、ディーノに頼んで精霊を使ってお前を監視してたんだ。案の定だったな」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る