第21話シルフィーの剣
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魔物のフルコースを食べ終え、カシアたちは再び丘に置いていた道具の山へ移動した。
「さて、早いところ武器を決めねぇとな。村に来た時は短剣使ってたから、そっちの方向で見繕ったほうがいいかもな。使い慣れてる物のほうが上達も早いだろうし……まあ、護りの指輪があるから、また吹っ飛ばされても死ぬことはないだろ。ケガしてもエミリオが治せるしな」
他人事のように楽観的なことを言いながら、ランクスは道具の山からいくつか短剣を取り出し、鞘から抜いてカシアの前に並べた。
短剣と一括りにしているが、装飾だけでなく、長さも形もそれぞれ違い、刀身が弧を描いている物や、儀式用なのか柄に細々と金の模様が彫られた物もある。
その中で一番目についたのは、美しい刃を少し反せた細身の短剣だった。目を凝らして見ると刃がわずかに虹色がかっており、柄の先にある透明な青い石が、護りの指輪の石とおそろいのような気がした。
「これがいいな、扱いやすそうだ」
カシアは短剣を手に取る。今まで扱ってきたどの剣よりも軽い。試しに空を斬りつけてみると、ヒュンッと鋭く風を切る音がした。
エミリオが「ほう」と感心したような声を上げる。
「武器を見る目はあるようですね。それはシルフィーの剣と言って、風の精霊が宿っている短剣。値段にすれば――」
「だから、金勘定はやめろって」
見逃さずエミリオにつっこむと、ランクスは一番近くにあった飾り気のない短剣を手にした。
「腹ごなしに軽く手合わせしてやるか。来いよ、カシア」
ランクスの上から目線に、カシアはムッと唇を尖らす。
「じゃあ遠慮なく殺ってやるよ!」
言い終わるのを待たず、カシアは地を蹴ってランクスへ挑みかかった。
本気でカシアはランクスを斬りつける。しかしランクスは余裕でカシアの刃を受けとめた。
にやりと彼の口元が笑う。
「やっぱ武器がいいと、少しは手応えが出てくるな」
受け身に回っていたランクスが、前に踏み込んでカシアを攻める。
刃が弾かれ、わずかにカシアの手が浮く。
すぐに応戦しようと、咄嗟に短剣を握りなおす。と、偶然に柄の青い石へ指が触れた。
その瞬間――ビュウゥゥッ! 冷たい風が二人の間へ渦巻くように吹いた。
不思議に思ってしまい、カシアの気が戦いから逸れる。その気配を察してか、ランクスは「ちょっと待て」と剣の動きをとめた。
「せっかくだから、そいつの力を借りてみろよ」
「力?」
「柄にある青い石のところを触って、『風よ吹け』って念じればできるぜ」
言われるままに、カシアは柄の石へ触れて念じてみる。
その直後、短剣を中心にそよ風が吹き始め、次第に激しさを増してつむじ風が吹き荒れた。
「始まったな。じゃあ、この状態でもう一度かかってこいよ」
風が吹いただけで、なにが変わるっていうんだ?
用心しながらカシアは軽い跳躍でランクスへ斬りかかる。
タッと地からつま先が離れる。
刹那、カシアの背中を強風が押した。
「わあっ!」
体がかたむきかけて、カシアは体勢を整えつつランクスへ迫ろうとする。
風を受けてカシアの動きが早くなり、一瞬にしてランクスの懐に入りこんだ。
「おっと、危ない」
咄嗟にランクスが避けてしまい、カシアは勢い余って前へ倒れた。ザザッと頬や肩が地面にこすれ、辺りに漂っていた草の青臭さは濃くなったが、護りの指輪のおかげか痛みはほとんどなかった。
すぐにカシアは立ち上がり、剣をまじまじと見つめた。
「今のが……この剣の力?」
「ああそうだ。この風を使いこなせば、まばたたきする間に何度も相手を斬ることもできるし、隙を突くことも容易くなる。さあ、またかかってこいよ。使い慣れるまで付き合ってやる」
ランクスが言う前に、カシアは再び風を呼んで挑みかかる。
明らかにいつもより素早く動け、剣を振るうことが楽しい。自然とカシアの顔に微笑が浮かび、何度もランクスと刃を交えた。
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