第21話シルフィーの剣


    ◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 魔物のフルコースを食べ終え、カシアたちは再び丘に置いていた道具の山へ移動した。


「さて、早いところ武器を決めねぇとな。村に来た時は短剣使ってたから、そっちの方向で見繕ったほうがいいかもな。使い慣れてる物のほうが上達も早いだろうし……まあ、護りの指輪があるから、また吹っ飛ばされても死ぬことはないだろ。ケガしてもエミリオが治せるしな」


 他人事のように楽観的なことを言いながら、ランクスは道具の山からいくつか短剣を取り出し、鞘から抜いてカシアの前に並べた。

 短剣と一括りにしているが、装飾だけでなく、長さも形もそれぞれ違い、刀身が弧を描いている物や、儀式用なのか柄に細々と金の模様が彫られた物もある。


 その中で一番目についたのは、美しい刃を少し反せた細身の短剣だった。目を凝らして見ると刃がわずかに虹色がかっており、柄の先にある透明な青い石が、護りの指輪の石とおそろいのような気がした。


「これがいいな、扱いやすそうだ」


 カシアは短剣を手に取る。今まで扱ってきたどの剣よりも軽い。試しに空を斬りつけてみると、ヒュンッと鋭く風を切る音がした。

 エミリオが「ほう」と感心したような声を上げる。


「武器を見る目はあるようですね。それはシルフィーの剣と言って、風の精霊が宿っている短剣。値段にすれば――」


「だから、金勘定はやめろって」


 見逃さずエミリオにつっこむと、ランクスは一番近くにあった飾り気のない短剣を手にした。


「腹ごなしに軽く手合わせしてやるか。来いよ、カシア」


 ランクスの上から目線に、カシアはムッと唇を尖らす。


「じゃあ遠慮なく殺ってやるよ!」


 言い終わるのを待たず、カシアは地を蹴ってランクスへ挑みかかった。

 本気でカシアはランクスを斬りつける。しかしランクスは余裕でカシアの刃を受けとめた。


 にやりと彼の口元が笑う。


「やっぱ武器がいいと、少しは手応えが出てくるな」


 受け身に回っていたランクスが、前に踏み込んでカシアを攻める。

 刃が弾かれ、わずかにカシアの手が浮く。

 すぐに応戦しようと、咄嗟に短剣を握りなおす。と、偶然に柄の青い石へ指が触れた。


 その瞬間――ビュウゥゥッ! 冷たい風が二人の間へ渦巻くように吹いた。

 不思議に思ってしまい、カシアの気が戦いから逸れる。その気配を察してか、ランクスは「ちょっと待て」と剣の動きをとめた。


「せっかくだから、そいつの力を借りてみろよ」


「力?」


「柄にある青い石のところを触って、『風よ吹け』って念じればできるぜ」


 言われるままに、カシアは柄の石へ触れて念じてみる。

 その直後、短剣を中心にそよ風が吹き始め、次第に激しさを増してつむじ風が吹き荒れた。


「始まったな。じゃあ、この状態でもう一度かかってこいよ」


 風が吹いただけで、なにが変わるっていうんだ?

 用心しながらカシアは軽い跳躍でランクスへ斬りかかる。


 タッと地からつま先が離れる。

 刹那、カシアの背中を強風が押した。


「わあっ!」


 体がかたむきかけて、カシアは体勢を整えつつランクスへ迫ろうとする。

 風を受けてカシアの動きが早くなり、一瞬にしてランクスの懐に入りこんだ。


「おっと、危ない」


 咄嗟にランクスが避けてしまい、カシアは勢い余って前へ倒れた。ザザッと頬や肩が地面にこすれ、辺りに漂っていた草の青臭さは濃くなったが、護りの指輪のおかげか痛みはほとんどなかった。


 すぐにカシアは立ち上がり、剣をまじまじと見つめた。


「今のが……この剣の力?」


「ああそうだ。この風を使いこなせば、まばたたきする間に何度も相手を斬ることもできるし、隙を突くことも容易くなる。さあ、またかかってこいよ。使い慣れるまで付き合ってやる」


 ランクスが言う前に、カシアは再び風を呼んで挑みかかる。

 明らかにいつもより素早く動け、剣を振るうことが楽しい。自然とカシアの顔に微笑が浮かび、何度もランクスと刃を交えた。

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