第十四章 もう一度 1-2






見覚えのある立派な構えの鉄門が眼前にそびえ立つ。



「……え。まずく無いですか」



「かも、しれないね」



敵陣のど真ん中。飛んで火にいる夏の虫。そんな気分だ。



「あああ、なにか他にいい場所はないかな。先生との思い出の場所ばかりで」



鉄門の向こうで教室の玄関扉が内側からガンッ、ガンッと引かれた。

おびえて思わず寄り添いあったマリカと安河内の前で、ゆっくりとドアがこちら側へと開く。暗がりから黒い液体が流れ出し、玄関の階段を伝い落ちて行く。


居た。

あの女性が立っていた。



「なんで、あそこから!?」



「追いつかれたんですよ! 走って」



共有する記憶が多い分、追いかけやすいのだろうか。

後ろのおぞましい何かは確かに、安河内の「先生」なのだろうか。



「や、安河内さん、やっぱり変わりましょう。今度の扉は私が開けます」



開けたのは、運良く玄関前に門が無かった向かいの家だ。

飛び出た先は、コンクリート作りの廃墟だった。

日が沈んだばかりなのか、反対に、昇ったばかりなのかわからないが、視界が悪い時間帯で、窓が破れ、物があちこちに散乱している室内は走りにくいことこの上ない。

ビリビリに破けてほとんど面積がなくなったようなカーテンと、びたパイプベットがそれぞれ四つ、温度のない真四角の室内に散っていた。



「ここ廃病院かなにか?」



「さあ、私にも」



一番問題だったのは、入り口という入り口に扉らしいものがはまっていないことだ。

壊れてしまったからなのか、もともと備え付けられていなかったのか、壁を四角く切り抜いたような入り口、出口がそこここに空いているだけで、どこにも逃げ場がない。

どこへ行っても、似たような景色ばかりだ。

窓から外を見下ろしてはみたものの、とても飛び降りれる高さでは無い。

どこかで床のきしむ音がした。



「ひい!マリカさん今の聞いた?何か移動してる?」



「しっ。近いですね。早く出ないと」



「あそこから出たらはち合わせるかもしれないよ。ここで隠れていた方がいい」



安河内がマリカの腕を引いて、ベットの下へと潜り込む。

二人でぎゅうぎゅうに体を納めると、マリカの目の前に牛乳瓶が一つ、ぽつんと立っていた。

ひっくり返して底をなぞると、ハートの形に割れていて、つるんとした感触が手に残った。



「これって……。いや、でも待って」



今は別のことの方が問題だ。



「安河内さん。安河内さんの背中にあの人の魂の端っこがくっついているんでしょう」



「あ……」



「来ちゃうんじゃ」



「本当。来ちゃったみたいだ」

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