第十三章 転 1-2
*
「あら、
「もう、亜美さんたら」
亜美のきつい冗談に、安河内は青い顔で力なく引きつった笑いを見せた。
旅館のみんなに迷惑をかけたくないと、安河内はあちこちで漏らしていたらしい。
彼を追う何かはあれから近づいたり、遠ざかったりを繰り返し、極楽浄土を出ていく勇気が今ひとつ出ない安河内の心をすり減らしていった。
「冗談よ、安河内さん。ちょっとからかっただけよ〜。本気で出て行って欲しいなんて思っちゃいないわ。ただ、あなた日を追うごとに辛気臭くなっていくからこっちも困っちゃうのよ。気晴らしに外にでも行ったら?ちょっと
亜美の言うことももっともだった。
最初はあんなに周囲を振り回す元気があった人なのに、ここ数日で
「大丈夫。苦味温泉郷の敷地内だったら、よっぽどのことがない限り霊は寄ってこれないわよ。長篠が湯の花の掃除に行くって言ってたから極楽山の源泉でも見に行ってくれば?マリカも行きたいって言ってたでしょう。一緒に行ってあげて」
「はい。安河内さん、そうしましょうよ」
「でも……」
「
自分でもこのセリフはちょっと
「一日の
ちょっとした登山に行くような出で立ちで、重なる枯葉を踏みしめ、山肌を蛇行するようにできた舗装もされていない道を、源泉目指して登る。
途中、湯の花掃除のボランティアをしてくれていると言う老人も加わった。
長篠が湧出地や、そこから湯を引いている仕組みについて解説してくれる。
「うちでは源泉から湯船まで湯を引くための『
「普通はその、お湯を引くための管は地下に埋まってるってことですか?」
「はい。そう言うことになりますね」
「はい、長篠さん。湯は自然に湧き出してるんですか? 堀ったから出て来たとかじゃなくて? ポンプで組み上げたりしていないんですか」
意外なことに、顔色は相変わらずながらも安河内が手を上げて長篠に質問し始める。
ちょっと単純なくらい、外気を吸うことが効いているらしい。
亜美が言ったように、彼のような活動的な人間には外に出ることが一番の薬になるようだった。
マリカはほっと息をついた。
「ええ。歴史ある湯治場はだいたい自然
「すごいんですね。で、僕たちはこれから何をすればいいんでしょうか」
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