第十章 接近1-6
「品のいいご夫婦は僕たちに向かって『本当のおじいちゃん、おばあちゃんだと思っていいよ』って言ってくれたんだ。社交辞令だったのかもしれないね。でも、僕は本当に、本当に、うれしかったんだよ」
「安河内さんらしい」
「そう?」
「はい」
安河内には振り回されがちだが、この人はとても心の真っ直ぐな人なのだろう。一緒に居たのは少しの間だけだが、マリカにもそれは伝わっていた。
「それから僕は、大好きなおじいちゃん、おばあちゃんが教えてくれるままに本当にひたすらに学んだよ。ねえ、聞いてくれる?後からわかったんだけど、夫妻は僕の両親にバイオリンのレッスン料、貰っていなかったんだって。孫からお金を取るなんておかしいって言って、断固、断っていたんだ。僕って単純だから、それをうちの親から聞いて、おじいちゃんとおばあちゃんには褒めておだてられて、気づいたら外国の有名なコンクールに出てたんだ。……選考会がいくつか終わったときだったかな、美咲先生が癌だってわかったのは」
−わたしね、あなたがコンクールで一位を取ったなら、きっと病気なんて治してしまうから。だから緊張せずに頑張るのよ
「遺体に向かって僕、嘘つきって言っちゃたよ。酷いよね。でも、あのときは謝れなかったんだ。自分だけがかわいそうなんだって思ってた。近所のおじさんとおばさんを、血も繋がってないのにバカみたいに慕って、褒めてもらいたくてコンクールにまで出て……。一番側に居なくちゃいけないときに僕は海外に居たんだ。本当、なんてバカだったんだろうって思った。おじいちゃんったらさ、おばあちゃんが亡くなったら後を追いかけるみたいに逝っちゃって。僕のことは頭の中にも心の中にもどこにもなかった……みたいな?自分の存在のちっちゃさを感じたよねー」
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