第十章 接近1-4







「ええ」



「僕も、マリカさんと同じように思ったんだ。……ねえ、同じものなんじゃないかな」



安河内は震える声でうめいた。



「僕を追って来る霊は先生なんじゃないかな」



手で顔を覆って、うずくまる。



「否定したいけど怖いんだ。もしあれが先生なら、なんであんな化け物みたいになっちゃったんだろう。どうして僕を追って来るんだろう。……長篠さんは、これから来る霊はタチが悪いから祓われて当然って風に言ってた。僕が先生を……傷つけてしまったからなのかな。だから先生はあんな風に−」



空は高く、せみの群がこんなにも元気に鳴いているのに、こんなにも穏やかな緑が目の前に広がっているのに、マリカをいつも癒してくれる景色は安河内の心を癒してはくれない。


気持ちが追いついていないとき、周りのことなど見えないし、聞こえない。



「ねえ。安河内さん。どうしてここへ来たの?」



「え?」



「どうして座敷わらしに会いたかったの?」



マリカはずっと聞きたかったことを尋ねた。


何かを求めてここへ来たはずなのに、安河内はマリカに「会いたかった」と言った日以来、何の願いも口にしていない。



「……聞いてくれるの?」



「はい」



「長くて暗い話になっても?」

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