第十章 接近1-3






「と言っても私自身、実際に通せんぼされた霊を見たわけではないので、アーチの効果のほどは完全に聞いた話になってしまうんですけど」



「ありがとう。ちゃんと信じているよ。あの人たちがそう言うなら、そうなんだろうね」



安河内の表情が少し和んだのを見てとって、マリカは本題に触れた。



「ずっとお顔が晴れないのは、やっぱりあの女性のことですか?……安河内さんは、その、自分を追いかけて来るのは、この前のあの女性だって思ってる?」





−『待っていたら、あちらから来てくれるのですから、動く必要はありません。安河内様はただ、当旅館へ居てくだされば良いのです』





温泉郷の入り口で身動きが取れなくなった霊を、「人を呼んで祓う」と長篠は説明した。安河内が焦ったような顔でぎゅっと拳を握っていたのに、マリカは気が付いていた。



「僕を追って来るものは、『よく無いもの』なんですよね。入り口のアーチに引っかかってここへは来れないくらいに」



「みたいですね」



「この前のあれは、何だったんだろう。あれは確かに、僕の大切な先生に似ていたけど、でもそんなことってあるのかな。あれからずっと胸の中がもやもやして、苦しいんだ。それになんだか、あの夜から背中に違和感があって時々突っ張るっていうか、引っ張られているっていうか、とにかく、あのときバイオリン教室で会った何かが僕を呼んでるんだ。僕にはわかる。あの、……古田くんだっけ?あの男の子は、僕を背中から引っ張っている霊が、あと二日でここへ来るって言ったよね」

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