第十章 接近

第十章 接近1-1







「いよいよもって、近いです」



ぬきがしかつめらしい顔で宣言した午後のこと、一同は若葉の間で安河内を囲むように座していた。

物が多い部屋なので、安河内、和泉、長篠、亜美、紺、貫、マリカが集まると、もう酷く手狭だ。


「ここへ来るまであと二日、といったところでしょうか」



「今日入れずに二日よね?」



「いえ、今日入れて二日です」



「前より早まってない?」



「はい」



「あら〜、幽霊さん新幹線にでも乗ったのかしら」と冗談を言う亜美の横で、安河内の顔は暗く、青ざめて行った。



「こちらでどうにかしましょう。せっかくご宿泊いただいたんですから。ご滞在中のお暮らしには責任を持ちます」



和泉の言葉にも「はい。……ありがとうございます」と小さく返す程度だ。

追われていると知った安河内の最初の夜の様子を思うと、マリカの中で違和感ばかりが増して行った。



「僕ちょっと、お手洗いに」



安河内のその一言に、場はお開きとなる。


旅館はこれから客の出迎えや夕食の準備にと忙しい時間に入るため、皆、持ち場へ戻ろうといそいそと腰を上げた。


安河内を助けると言った和泉に目で礼を言って、マリカは安河内の後を追った。


お手洗いに行くと言った彼は、厠とは真反対の離れへと歩いて行く。


渡り廊下の入り口で立ち止まり、一歩を踏み出せないのか、ただじっと、向こう側を見つめていた。

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