第九章 思い出1-10







「鍵、かかっていないんですね」



マリカの問いかけに安河内は答えない。

気になって見上げると、玄関に綺麗に並べられた女性ものの靴を見て安河内は固まっていた。


そして、息を飲み突然、靴を脱ぎ始めた。




「……先生!美咲先生!居るんですか」



わずかな間も惜しいように乱暴に靴を放り、安河内は階段を駆け上がって行く。



「待って、安河内さん!」



二階へと向かった安河内を追って、マリカもすぐに駆け上がった。

真ん中だけ凹んだ幅広の木製の階段が、ミシミシと音を立てる。

中二階の踊り場で階段はUの字型に折れ、後方、二階へと続いていた。



(……そういえば)



マリカは踊り場で立ち止まる。

ドアを開けたのに、どうしてまだ、「家の中」に居るんだろう。



踊り場の壁に嵌るステンドグラスからは、つい先ほどまで自分たちが立っていた入り口の鉄門が見える。


階下の、本当に目と鼻の先にあるのだ。


どうして、ドアを開けたのに、別の場所へと繋がらない?


やはりどこか、今までとは違う。




「あ……」




と、そのとき小さく、安河内の声が聞こえた。

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