第九章 思い出1-3






「これはね、液体のような私たちの少しを、細く細くったものです」



「離れすぎたら毛糸玉を引っ張るみたいに亜美さんが小さくなっていったりしませんか」



「しない、しない。でもそうね、ちょっと突っ張る感じはあるかなぁ。マリカも和泉と繋がってるなら、たまに感じない?」



「そう言えば、安河内さんがいらした最初の夜にちょっとだけピリッとしたことがあったような……」



急にひっくり返って天井が見えたとき、びっくりして安河内と距離を取ろうと思ったマリカを手助けするように、和泉が腕を引いてくれた気がする。



「はい、皆さんそれぞれの身体へ巻き終わりました!手繰ればここへ、つまりは紺ちゃんのとこへ帰って来るから、紺ちゃんは釣りをしつつ、目印としてここに残ってね。私は旅館の向こうの浅間山のあたりへ山菜を摘んで来ます!解散っ!」



電車ごっこか、雪山登山隊かという出で立ちになった四人のうち、マリカ以外は輝く笑顔だった。



不安な気持ちが顔に出ていたのだろう。頬が引きつったマリカに亜美が、あっけらかんと言った。



「目についたドアを開けると、だんだんと色んな場所に繋がって行くからね。今回は基本的に、マリカがドアを開けるようにしてちょうだいな。繋がる世界はドアを開けた人の記憶に影響を受けやすいから、安河内さんはマリカの後に付いて行ってください。あと、もしものとき追いかけやすいようにドアは開けたままでよろしくっ」

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