第九章 思い出
第九章 思い出1-1
「うわー、うわー!地平線だ!大草原だ!」
「ちょっと、
「そんなに心配しなくても大丈夫よ。目の届く範囲にいれば」
極楽浄土の離れにある九番目の部屋【夏野】を開けると、そこは北海道の雄大な自然が望める丘へと繋がっていた。
頬を撫ぜ、首元を洗うように流れていく心地よい風に、心がすっと軽くなる。
見渡す限りの自然なんて、久しく見ていない気がした。
あとは安河内さえ落ち着いてくれれば、マリカは一安心なのだが。
「紺ちゃん、ここ、北海道のどのあたりなの?」
亜美が紺に尋ねる。
「野付半島のあたりだと思います。
「えー、なんだって?」
安河内の声が遠くの草の中から返って来た。
「ここー、本当にすごいですねー!僕、あの未来の世界の猫ロボットが持ってるドアはピンク色だと思ってたんですけどー、襖バージョンもあるんですねー!ドア一つでどこへでも行けちゃうなんてー、ほんと、すごいやー!」
マリカはため息を吐いた。
安河内はドアの向こうの世界の不気味さを知らないからそんな呑気なことが言えるのだ。
「どうして安河内さんまで連れて来てしまったんですか。迷子になってしまったらどうしよう」
「マ、マリカお姉ちゃん。大丈夫だよ。だってね、釣りをするなら人数が多い方がたくさんのお魚が取れるでしょ?みんなの夕飯のお魚、頑張って取りたいの。それに、旅館から離れるってことは、や、安河内さんにとっては安全なことだから」
紺がもじもじと恥ずかしそうに言葉を紡いだ。小さな耳がひくひく動く。
「なるほど」
追って来る何かからさらに距離が開くことになるわけだから、紺の言い分は納得だった。
とは言え、はぐれでもしたら、また別の危険が迫り来ることには変わりない。
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