第八章 夏野 1-3








落ち着いた赤色の着物と、藍色の着物がそれぞれ一枚ずつ。

帯や帯締おびじめめ、足袋たびやその他の細々としたものもある。


一瞬、目を見張ってから亜美は「ああ、なるほどね」と言った。



「私、色々わかっちゃったわ。これ、和泉からマリカに。好きな方を選んでくれって意味だと思うよ」



「え?和泉さんが?どうして」



「ね。どうして自分で直接、渡さないのかしら。全く、面倒臭い男。それに好きな色くらい自分で聞けば良いじゃ無い、ねえ? 暖色と寒色どっちが好きかわからないから両方買ってたんでしょう、これ」



「そんな、もらえません。こんな高そうなお着物。どうして、いきなり? あ、座敷わらしのときに着ていた着物の丈がやっぱり仕事着にしては短かったんでしょうか」



「はいはい、きっとそうよ。この着物はもらっときなさいな。その方がアイツのためでもあるみたいだし。で、どっちがいい?」



「どちらかと言われると、赤」



「赤ね。うん、私もマリカにはそっちだと思う。見ててみなさい。明日には赤っぽい色の着物やら浴衣やらが用意されてるから。あはは。着付け、手伝わなくても大丈夫よね」



「はい。慣れていますから。ありがとう」



マリカは身にまとっていた仲居用の仕事着から、手早く新しい着物に着替えた。

生地が上等なので汚してしまわないか心配だったが、今日も安河内に合うのだろうし、座敷わらし用の仕事着としてありがたく利用させてもらうことにした。



「へえ、本当、慣れたもんね。忘れがちだけど、マリカって私より年上なんだよね」



「私も忘れちゃう。亜美さん頼りになるから。……っと、髪飾りまである。私、短いから似合うかな?」



「似合うよ。似合うと思ったから買って来たのよアイツは。この前のミニ丈の着物も可愛かったけど、あんたにはこう言うさっぱりした清楚な方が似合うわね。こっちはモノホンの座敷わらしって感じ」


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