第八章 夏野

第八章 夏野 1-1










***






マリカは夢を見ていた。


夢の中のマリカはまだ小さい子供で、先生が横たわる病室のベットのすぐかたわらに、ひざをついて座っていた。


白色のビニル素材の清潔な床が、膝の下で柔らかく沈む。


ベットのふちは高く、マリカの胸のあたりまで来ていた。


スライド式のガラス窓は開け放たれ、柔らかい風と、優しい日差しが入り込んで来る。

カーテンが風にふわり、膨らんだ。





ひたすらに白い病室の中で、マリカは先生の皮膚の薄い、青い血管の浮く手を握り、一生懸命に伝えた。



「大丈夫。大丈夫だよ。僕、頑張るからね」



先生は笑って言った。


「ええ。わたしね、あなたがコンクールで一位を取ったなら、きっと病気なんて治してしまうわ。だから緊張せずに頑張るのよ」






一位を取ったのに……






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