第七章 不思議なお客さま1-6
「やっぱり『好き』なんですか」
「はい。理由は上手く言えないんですけどね。どうして人は恐ろしいものに惹かれるんでしょう」
「そうですねえ、怖いもの見たさも言うなれば好奇心の一種。好奇心が人類をここまで発展させてきたわけですから、生まれ持った本能でしょうか。オカルト研究会って、何をするんですか?文献を漁るとか?」
「それ以外もしますよ。海外の映画を見たりとか、ドラマを見たりとか、映像作品についても議論します。作品に対して持論を語ったりとか」
「へえ、ちょっとあたしにも、聞かせてくださいますか」
「僕、夏によくある人気俳優を大量投入した中身の無い日本のホラー映画は苦手なんですよ。外国の、モンスターみたいなお化けが出てくるだけの、ただ驚かせば良いと思ってる映画も」
「結構語りますね。では、どんなお話がお好みで?」
「例えば霧けぶる中に、古い石造りの洋館が建っているんです。昔はきっと立派な建物だったのでしょうけど、今ではすっかり見る影もなく、冷んやりしていて扉は壊れていて、蜘蛛の巣が張っている。それで、そうなってしまったのには悲しい理由があって……。上手く言えないんだけど、理由があるのがいいんです」
「なるほど?」
「ホラー映画ですから、もちろんそういう場所に幽霊が出てくる訳ですけど、死んでしまっていてもこの世に執着せずにいられない悲しい訳があって、それが話の進む中で解き明かされて、ラストに切ない余韻が残る……そんな話が好きですね。だってずっと不思議に思っていたんです」
安河内は静かに天井を見つめていた。
「もし明日、僕が死んでしまったとして、身体を失って魂だけの存在になったとしましょう。果たして僕は、生きている人を【生きている】と言う理由だけで恨むでしょうか。きっと、恨んだとしても自分を死に追いやった犯人くらいのもので、無差別に人を襲う化け物になんてなりませんよ。映画の中だって同じでしょ?生前、通り魔だったのならいざ知らず。優しかったはずの人が理性を無くして人を襲う化け物になるなんて、どこか変じゃないですか」
だからしっくりくる物語が好きなのだと、安河内は言った。
「ここへ来て、自分の説に確信が持てて嬉しいな。だってあの座敷わらしさんはすごく性格が良さそうだった」
「本当にそう思いますか?」
安河内が驚いてこちらを見た。
「へ?あの子、性格があんまり良くないんですか?」
「違いますよ、そちらではありません。どうしてそんなに残念そうなお顔をなさってるんですか、全く。亡くなってしまった方達の霊が、何一つ変わらずにずっと、そのままで居られると思われますか」
「ああ、そっち。もちろん、そう思います。違うんですか?」
「……さあ」
この若者を虐めても何も始まらない。
何も知らない彼には責任のないことだ。
ただ、何も知らずに発せられた言葉だからこそ、長篠の胸をひどくかき乱した。
しばらく経って気持ちが落ち着くのを待った長篠は、安河内に聞いてみた。
「そういえば、座敷わらしに会って、幸運を引き寄せて、どうしたいのですか?」
返事はない。
もう、寝たのだろうか。
***
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