第六章 初仕事 2-3
最初のお客が来る前に、マリカは全てのおもちゃの電池を新品に入れ替えた。
一つ一つの作動音を確認した結果、最も派手な音を出したのが、この、日に焼けて端っこが茶色く変色したプラスチック製の救急車だ。
救急車の癖して鳴る音がサイレンでは無いのも、個性があって良い。
安河内はと言うと、「ビクッ!!」とはしたものの、特に声を上げることは無かった。
驚いた拍子に肩に力が入ったのか、首をすくめたまま、恐る恐る片腕だけを伸ばしスイッチをポチっと押した。
オクラホマミキサーが消える。
と、安河内はそそくさと入り口にまで戻っておもちゃから距離をとった。その姿を見たところ、怖く無い……という訳では無いらしい。
次に、第二条。
−第二条……二分後に再び玩具のスイッチを押せ
注: 先ほどと同じ玩具でも、異なるものでも、どちらでも良い
(カチっと)
せっかくなので、隣のおもちゃを選んでみた。
女児に大人気の『ルカちゃん人形セット』だ。これは病院ごっこができるセットで、手術台のボタンを押すと、ビートルズの『Help!』が鳴る仕様になっている。
うーん。ある意味、シチュエーションには合っているのかもしれないけれど、どうしてこんな変わり種のおもちゃばかりなのか。
安河内はまた「ビクッ!!」っと肩を詰まらせると、右腕を伸ばして顔はなるべくおもちゃから背けながらスイッチを消しに来た。
少しの間、音の発生源を探して視線を彷徨わせ、病院セットだと特定する。
妙なおもちゃだなとでも思ったのか、少し不思議そうに首を傾げた。
マリカはと言うと、安河内の側で構えて、消した瞬間に側で押し直す準備をする。
姿を見られやしないかと、ちょっとだけドキドキした。
「ポチっ」
安河内がボタンを押す。音は消えた。
カチ。マリカもボタンを押し直す。音が鳴る。
ポチ。消えて。
カチ。鳴って。
ポチ。消えて。
カチ。鳴って。
ポチ。
カチ。
ポチ。
カチ。
ポチ。
カチ。
ポチ。
カチ。
ポチ。
カチ。
「……マジか」
安河内は呟くと、すっくと立ち上がった。ボストンバックを持って部屋から出て行く。
「ぶっは!」
「ちょっと、亜美さん。大きな声出しちゃダメですよ!安河内さんが気づいちゃったらどうするんですか?」
「いや、あんた。今ので笑わない方が可笑しいって!!あ〜、死んじゃう。うひぃ」
「それより、亜美さん。彼、帰ってしまったらどうしよう」
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