第四章 目がさめるとそこは・・・ 2-1
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「客室は六部屋だけ?」
翌朝、すっかり元気を取り戻したマリカは約束通り、亜美に温泉を案内してもらっていた。
「ううん、上の離れの方にあと四部屋あるわ。この旅館、山の裾に添わせるように建っているから、平屋みたいな作りじゃないのよ。ちょっと坂道になった渡り廊下を超えて……、あ、あれがその廊下ね」
指差す方を見ると確かに、木々に紛れてそれらしきものを見つけた。
本館から離れへと繋がる瓦葺きの屋根の下に、長く、簀が敷いてある。
緩やかな坂道になっていた。
「あとで案内するわ。そうだ、ねえ。旅館と民宿の違いって知ってる?」
「いいえ。考えたことなかった」
「部屋数で決まってるんだって。五部屋以上が旅館らしいよ。前お客さんに聞かれちゃって答えられなくってね。あのときは焦ったわ〜」
客室にはそれぞれ、夏の季語が当てられていた。
夏の宵
夕立
風薫る
と言った具合だ。
けれど、仲居たちは一々「ほにゃららの間」と呼ぶのが面倒臭いので、部屋に番号をつけて呼んでいるらしい。
部屋はそれぞれ、十二畳ほどの本間と広縁で成り立っていた。
今ではあまり見なくなったブラウン管テレビが、各部屋に一つずつ置いてある。
それは趣のあるこの旅館には合っているのだが、どうしてか和泉はそのうち買い替えたいと思っているらしかった。
外の木々の背が高いので、向かい合わせに椅子が置かれた広縁には、どの部屋も窓から柔らかな木漏れ日が落ちていた。
一、二、三と案内されて、五番目が『若葉の間』だった。
「四番飛ばすのは、忌み数字だから?」
「そ。よく知ってるわね」
ここへ来る途中、忌み数字を避けた部屋を抜けて来たことを、マリカは亜美に話した。
「ああ、あの部屋ね。そうそう。九も飛ばして私たちの中じゃ、十二の部屋が一番奥の部屋ってことになってる」
「でも、それって覚えづらく無いですか」
「ううん。慣れたらあんまり関係ないかも」
亜美はその後も、「頑張ってお客用に覚えた」という知識を披露してくれた。「行くわよ〜、聞いといて」と言い置いて、気合いを入れて述べ始める。
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