第二章 忌数字の抜け道 1-2
途中、木々の向こう。
立ち退きでもあったのか、コンクリの土台だけになった家々の跡が延々とつづくこともあったし、林の中に廃線になった電車が埋まっていて、
−ナガネン ノ ゴ愛乗 アリガトウ ゴザイマシタ
と、書いた看板が
ヨーロッパの白壁の街に映えそうな鮮やかな青色の扉の側を通ったときはあまりに綺麗で、思わず手をのばしたくなったのだが、それを見た和泉が言った。
「開けてもいいぞ。縁起の悪い場所にしか繋がってないけどな」
「え?」
普通に「開けるな」と言われるより怖い。
「や、やめておきます」
「そ?」
どうしても背後から誰かが追って来ている気がしたマリカは手近な棚に並べてあった本を拾った。
物語の本というよりは、何かを記録した、日記帳のような物だ。印刷ではなく、青いインキの手書きの文字が整然と並んでいた。
文字は日記帳の厚さの三分の二ほどまでしか書かれていない。後半へ行くと、白紙だった。
「そんなの持ってどうするんだ」
「角が厚いから、いざと言う時にはこれでガツンっと」
「……頼もしいことだな」
「どうも」
けれど結局、本が役に立つことは無かった。
もう何番めかわからないドアを開いた後、最後の最後に和泉はとんでもない高さの崖から迷いなく飛び降りた。
例えて言うなら、二時間ドラマの最後、犯人が追い詰められていそうな崖だ。
はるか崖下には打ち寄せる波が泡立っていたのに、あんまりにも自然に、ちょっと一歩を踏み出すくらいの気楽さで和泉は落ちて行った。
遠くの水面には月が浮いていて、蒼さの強い夜の海は見ている分には美しいのだが……すぐにマリカは他人ごとでないことに気が付いた。
「ちょっ!待っ!」
かかとをギリギリ踏ん張っても地面との摩擦を引き起こしようが無い体のマリカは、またまた遊園地で子供に買われたバルーンよろしく、主人の行く道を後からついていく他なかった。
マリカはあっけなく、水の中に落ちて−と言えば聞こえはいいが実質は上から突き刺さって−行ったのだった。
***
「あやー、
あんな上物は滅多に居ない。
受け答えも割としっかりしていて、そしてなにより可愛かった。
「うーん。高くで売れそうや」
一緒にいた青年にも興味がある。
以前にちらりと噂を聞いたことがあったが、もしかしてその彼だろうか。
鬼原は携帯電話を取り出した。
これは社長に良い報告ができそうだと、口笛を一つ吹いたのだった。
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