諦めないことの大切さを伝えたい

 今日は平日ですが、マルぼんとヒロシは微笑山へハイキングにでかけました。当然のごとく学校も仕事もぶっちです。でもいいんです。楽しければ。



ヒロシ「やーまおとこには、ほっれるなよっ、へい!!」



マルぼん「うん? この道、さっき通ったところだぞ」



ヒロシ「同じ道……遭難!? 遭難ー!?」



マルぼん「落ち着け。落ち着け」



ヒロシ「もう手遅れだ。この先の展開には絶望しかないんだ。遭難→山をさまよう→山小屋発見→中には同じように遭難したカップル・会社社長と部下・無口でしゃべらない男・山小屋の管理人・登山が趣味の女と友人・偶然来ていた探偵とその娘と居候のガキがいる→社長の部下殺される→この山には『死を呼ぶやまびこ』伝説がある→事件は『死を呼ぶやまびこ』の仕業にちがいない→いや、これは『死を呼ぶやまびこ』なんかじゃなくて殺人事件だ→次はカップルの女のほうが…(省略)ってな展開で、最終的に僕が逮捕されて精神鑑定!!」



マルぼん「……」



ヒロシ「死ぬ! 精神を鑑定されるくらいなら、死ぬ! 死んで先祖にわびるー!!」



マルぼん「貴様、あきらめ早すぎ! これでも装着しろ」



 マルぼんは装着するとどんな絶望的な状況でも希望を忘れず、けしてあきらめなくなる機密道具『おうじょうぎ輪』をヒロシに装着させました。



ヒロシ「…は。僕としたことがいとも簡単にこの世に絶望してしまった…よし。助かる方法を模索するぞ!」



 偶然にもリュックに入れていた『料理百科』を鬼の形相で調べ始めるヒロシ。



マルぼん「なにを調べているんだい?」



ヒロシ「意味の分からない生物の肉でも、いつでもどこでも、簡単に安全に、しかも美味しく調理する方法さ。生き延びるには、まず体力。…ごめんな、マルぼん。ほんとうに、ごめん。絶対にキミのこと忘れない」



マルぼん「その目はなに? そのわかれの挨拶もなに? あと、その手にもった石。というか岩。いったい…」



 

 遭難によって人間としてひとまわりもふたまわりも大きくなったヒロシと、ひとまわりもふたまわりも小さくなったマルぼんは、地元消防団に救助され、無事帰還しました。



ヒロシ「今度の体験で、僕は大きな勇気を得た。この勇気で、意中の人に愛を告白する!!」



マルぼん「ま、おやり(食された体の再生に手一杯)」



 そんなわけで、ここは微笑町某所。ヒロシが長年好意を寄せている、小松さんの未亡人の部屋の前です。



ヒロシ「お、奥様!!」



未亡人「どちら様です?」



ヒロシ「去年の暮れぐらいから、頻繁に無言電話をかけたり、近辺にビラを貼ったり、勝手に婚姻届を提出したり、一晩中家の様子を伺っていたりしていた者です!」



未亡人「え…!?」



ヒロシ「好きです! ずっと好きでした! 結婚を前提にお付き合いしてくだいませ!」



未亡人「ち、近寄らないで!」



ヒロシ「断られてもあきらめないぞ、好きです! 大好きです!」



未亡人「人を呼びますよ!?」



ヒロシ「逮捕されても、釈放されたら…へへ……」



ヤクザ「なんや、おのれは。ハニーになんぞようか?」



未亡人「ダーリン!!」



ヒロシ「どどどどどどどどちら様で!?」



ヤクザ「ハニーの…この女のダーリンやがな。おのれか、ハニーにつきまとっとったハエは。どこのどいつや」



ヒロシ「いえ、その、あのその…僕はこの人を愛するものです!!」



ヤクザ「愛は間にあっとんねや。ガチャ(なにかの安全装置を外した音)」



『おうじょうぎ輪』の効果は絶大のようです。



 


 それから3年。



ヤクザ「ただいま。ハニー。智弘」



元未亡人「おかえりなさい、ダーリン。ほら、智くんも、パパにあいさつは?」



智弘「……」



ヤクザ「相変わらずだなぁ、智は」



元未亡人「もう2歳なんだから、挨拶くらいできるとは思うんだけど…」



ヤクザ「そのうちできるようになるさ。それより風呂は?」



元未亡人「あ、いけない。いそいでいれてくるわね」



智弘「あ…お母さん、行かないで…」



ヤクザ「智はママが好きだな」



智弘「うん。愛しているもん。昔から。ずっと昔から」



ヤクザ「2歳なのによく言うな。さすが俺の子供だ」



智弘「あきらめろと言われても、僕はママを愛しているんだ」



ヤクザ「じゃ、俺は? パパのことは愛しているかい?」



智弘「愛してなんかいない。むしろ大嫌いさ」



ヤクザ「哀しいな。どうしてだい?」



智弘「だって、僕を殺したもの」



『おうじょうぎ輪』の効果は、しつこいようですが絶大なようです。

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