ボタンひとつでなんでもできる

ヒロシ「めんどくせーめんどくせー息をするのもめんどくせー。ああ、ボタンひとつでなんでもできればいいのにな」



マルぼん「一応、そういうことはできるけど」



ヒロシ「ほんとに?」



マルぼん「この家をだね、ボタンひとつでなんでもできる家にリフォームしてしまおう」



ヒロシ「わーい!」



 こうしてヒロシ宅は、ボタンひとつでなんでもできる家へとリフォームされました。



ヒロシ「部屋の中央にあるこのボタン。このボタンでなんでもできるわけなんだね」



マルぼん「うん」



ヒロシ「僕、テレビが観たいな」



マルぼん「ボタンを押してみなよ」



ヒロシ「うん! ポチっとな! あれ、ラジオがついたよ」



マルぼん「『ラジオをつけたい時のボタンの押し方』でボタンを押したんだな。ちゃんと『テレビをつけたい時のボタンの押し方』でボタンを押さないと。『テレビをつけたい時のボタンの押し方』は『生まれて初めて好きになった人の顔を思い浮かべながら左手薬指で軽く押す』だってさ。はい、どうぞ」



ヒロシ「???」



マルぼん「家に備わった機能に、それぞれ対応したボタンの押し方があるんだ。ようするに、テレビが観たいなら『テレビをつけたい時のボタンの押し方』でボタンを押さないとテレビはつかない。風呂を沸かせたいなら『風呂を沸かせたい時のボタンの押し方』でボタンを押さないと風呂は沸かない。ボタンはひとつしかなから、押し方も複雑になる」



ヒロシ「なんでもボタンひとつでできる=簡単、というわけじゃないのな」



マルぼん「うん? どうした。顔色悪いよ」



ヒロシ「おなかが…急に痛くなって…救急車を呼んで…」



マルぼん「たいへんだ。ちょっと待ってて。今、電話を。おや。電話がない。そうだ。電話は通常、きれいに収納されているから、ボタンを押してこの場に出さなければならないんだった」



 マルぼんは『電話を出したい時の押し方』でボタンを押しました。『電話を出したい時の押し方』の『左足の一番太い指で、好きな芸能人の顔思い浮かべながら押す』でも、電話は出てこず、机の引き出しが勝手に開きました。



 大失敗。マルぼんが思い浮かべたのは、一番好きな芸能人の顔ではなく太ももでした。『左足の一番太い指で、好きな芸能人の太もも思い浮かべながら押す』は『机の引き出しを開けたい時のボタンの押し方』だったようです。



マルぼん「あれ? あれれ?」



ヒロシ「う…」



マルぼん「よし。なんとか電話がでたぞ。さっそく119番に電話しないと。えっと。『電話の1の部分をプッシュしたい時のボタンの押し方』は…」



ヒロシ「ダイヤルするにも…ボタンをおさない…とダメ…なの?」



マルぼん「なんせ『なんでもボタンをひとつでできる家』だからね。

あーもう。押し方わかんねえ」



ヒロシ「直接…」



マルぼん「よし。めんどくさいから直接お医者さんを呼びにいこう。待ってな。今、『部屋のドアを時のボタンの押し方』でボタンを押して、部屋のドアを開けるから。えっと、どういう押し方だったかな。」



 マルぼんが『部屋のドアをあけたい時のボタンの押し方』を見つけようと試行錯誤しているうちに、ヒロシは動かなくなりました。『動かなくなったヒロシを動かしたい時のボタンの押し方』は、ありません。

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