棚から

ヒロシ「ぐむぅ。ぐむぅ」



マルぼん「どうした、ヒロシ。珍妙なうめき声など出して」



ヒロシ「ほら、棚の上にダンボールが置いてあるだろ。あれを取りたいんだけど、手が届かないの。あの中には、僕の秘蔵のアレなグッズが山のように入っているんだよ」



マルぼん「がんばれば手が届きそうなものだけど」



ヒロシ「ヘタに取ろうとして、ダンボールが落下してきたら大変だ。ダンボールが頭にぶつかって、僕はきっと死ぬ。僕が死んだら、将来、天才である僕が開発するであろうどんな病気でも治癒する薬が完成しなくなり、救われるはずだった命が救われず、やがて人類は滅亡するだろう」



マルぼん「きみがいないと全滅する人類なんて、今ここで滅びてしまえばいいのに」



ヒロシ「棚の上のダンボール箱を安全におろすことのできる機密道具出してー」



マルぼん「これを食え」



ヒロシ「なにこれ。棚みたいな色をしたぼた餅じゃないか」



マルぼん「そいつは『棚カラーぼた餅』と言って、食べたら棚の上にあるものが、たとえどんなものであろうとも勝手におりてくるという機密道具なんだ」



ヒロシ「今日、この日のために生まれたかのような道具だね。ありがとう!」



 ヒロシが『棚カラーぼた餅』を食べると、棚の上に置かれていたダンボール箱がひとりでに動きだし、ヒロシの足元へとおりてきました。



ヒロシ「うわー、こいつは便利だーって、あれ?」



 なんということでしょう。ダンボールの他にも、『昔、大沼家で飼っていたペットの遺体をミイラにしたもの』やら、『ママさんが旅行先で買ってきた、人の体の一部っぽい干物』やら、『ママさんが、かつて交際していた男性から別れ際にもらうなどして集めた、大量の毛を使って編んだチャンチャンコ』やら、棚の上に置かれていた他のものまで、おりてきたではありませんか。



マルぼん「効果が強すぎて、余計なものまで棚から下りてきたんだ」



ヒロシ「やれやれ。とんだ欠陥道具だなぁ」



ママさん「ヒロシーを殺すねー。あなたを殺すねー。包丁で刺し殺すねー」



ヒロシ「なんですって、お母さん」



ママさん「実は10年前、保険金目当てであなたを殺す計画があったの。諸事情で棚上げになっていたんだけど、今まさに、実行に移すわ!」



ヒロシ「ひょえー! 堪忍して! お父さん、お母さんを止めてください」



パパさん「やだいやだい! ヒロシの保険金で、新しい車をかうんだい!」



ヒロシ「とんだクズ人間!」



 と、その時。いきなりですが、微笑町は核の炎に包まれました。その少し前、某国では……



偉い人「ほら、少し前にさ、日本の微笑町ってとこで核兵器の実験をするって計画あったやん?」



その部下「馬鹿げているからと、棚上げになっていた計画ですね。それがどうしました」



偉い人「いまさらだけど、実行に移そうかと思って。というか、もう移した」



その部下「うはっ!」



 マルぼんは、どんなものでも棚からおろすことができる『棚カラーぼた餅』の効果は絶大だと思いました。



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