バーチャル

マルぼん「今年も食の安全神話がもろくも崩れ去ったね」



ヒロシ「そうなの?」



マルぼん「『そうなの?』って、新聞とかで散々騒がれているだろうに。産地偽装とか、そういうのが」



ヒロシ「僕はね、新聞は4コマ漫画とテレビ欄と人生相談と週刊誌の広告しか読まない主義なの。仮に読んでいたとしても、身近でそういうことが起こったわけでもないし、なんか別の世界の出来事のように遠く感じちゃうんだ。まてよ、ひょっとしたら、僕は本当に別の世界の住人なのかもしれないぞ。本当の僕は、どこか素晴らしい世界で勇者として称えられ、幼馴染やらお姫様に好かれていて・・・・・・きっとそうだ!、僕は勇者。勇者なんだ。今いる世界は全て夢。悪夢! 夢でござる夢でござる夢でござーる!!」



 このままでは、ヒロシが夢と現実の狭間をさ迷う旅人になってしまうので、マルぼんはなんとかしようと思いました。



マルぼん「『実体験セロテープ』~」



 マルぼんは、今朝の新聞から『食品の産地偽装発覚』の記事を切り抜くと、『実体験セロテープ』を使ってヒロシの背中にぺたりと貼り付けました。



マルぼん「『実体験セロテープ』で紙を貼り付けられた人は、その紙に書かれていることを実体験することになるんだ。たとえば『空を飛ぶ』と書かれた紙を貼られた人は、空を飛ぶ羽目になる。食品の産地偽装発覚の切抜きを貼ったから、キミは食品の産地偽装発覚を実体験することになるだろう」



ヒロシ「実体験といってもなぁ」



 と、その時。寝室から絹を裂くようなママさんの悲鳴。マルぼんたちが急いで駆けつけてみると、パパさんが鈍器のようなものをママさんに振りかざしているところでした。



マルぼん「やめなさい。こんな女、殺す価値もない」



パパさん「だって、だって! この女は嘘をついていたんだ。俺以外にも付き合っている男がいたんだよっ。ヒロシはそいつの子供で、俺の血なんて引いていなかったんだっ。殺してやる。

殺して埋めて掘り起こしてまた殺して埋めて掘り起こして殺して埋めてむすんでひらいてそーのーてーをむーねーにー」



マルぼん「なるほど。『食品の産地偽装発覚』の記事を貼ったから、ヒロシの産地の偽装が発覚したんだ」



ヒロシ「たしかに産地の偽装は発覚したけど、僕は食品じゃないよ」



マルぼん「……」



ヒロシ「マルぼん?」



マルぼん「今まで黙っていたんだけど、実はマルぼんの好物、人間の子供なの」



ヒロシ「さ、さわるな、来るな。わ、わ、わ、ひょえー!!」



マルぼん「もぉガマンできなーい」



 ぱくぱくむしゃむしゃ。



マルぼん「うまいっ!!」テーテッテレー



 マルぼんは『実体験セロテープ』の効果は絶大だと思いました。

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