天敵になろう

 近隣住民を追い回し、噛み、食らい、迫りくる保健所を撃退し、多数の犠牲者を出していた野良犬……通称「鎌嵐」が、死んでいるのが発見されました。「鎌嵐」の遺体は解剖され、死因はフィラリア症であることが判明したそうです。



 「鎌嵐」の死体を最初に発見したのはヒロシだったのですが、どうも発見時におかしなことがあったようで。



ヒロシ「鎌嵐の体の中からね、声がしたんだ。女の声。『カタキハトリマシタワー』って」



マルぼん「そうか。そこまで知っているのなら、真相を話さねばならない。その声の主、実はルナちゃんなんだ」



ヒロシ「え!? それじゃ、鎌嵐の死は、ここ数日姿を見かけないルナちゃんと関わりが!?」



マルぼん「一週間前、ルナちゃんのところの尊師が、鎌嵐に殺されただろ」



ヒロシ「布教活動のために町中をウロウロしている時に犠牲になったらしいね」



マルぼん「ルナちゃんは尊師の敵である鎌嵐を討ち取ろうと決意したんだけど、なんせ相手は、熊くらいの大きさ。か弱き少女一人ではどうにもならない。そんなわけで、彼女はマルぼんに相談してきたんだよ。マルぼんは、機密道具『てんてき点滴』で対応する事にした!」



 『てんてき点滴』を投与すると、自分の望む生き物の天敵に変身する事ができます。ルナちゃんはこの点滴の力で、犬の天敵である寄生虫のフィラリアに変身し、鎌嵐に感染し、死に至らしめたのです。『カタキハトリマシタワー』は、ついに尊師の敵をとったルナちゃんの、歓喜の声だったというわけです。



ヒロシ「根性のある女! ところで、その『てんてき点滴』、僕にも貸してくれないか」



マルぼん「いいよ」



 そんなわけで『てんてき点滴』を手中に収めたヒロシ。彼には野望があったのです。



ヒロシ「日本中の子供の天敵になったる!」



 いじめられっ子のヒロシは、いつの間にか、いじめっ子だけではなく、自分を助けない全ての同級生、全ての子供たちに憎しみをむけるようになっていたのです。全ての子供の天敵なり、全ての子供を苦しめてやる。喜んで『てんてき点滴』を己に投与するヒロシでしたが



ヒロシ「おかしいな。何の変化もないぞ」



ナウマン象の母ちゃん「いたわ! ヒロシさんよ!」



金歯の父親「キャーヒロシサーン」



その他無数の大人たち「ヒロシサーン! 抱いてー! 抱かせてー!!」



 突如現れた大人たちが、ヒロシの服を強引に脱がし、その若さ溢れるはちきれんばかりの体にむしゃぶりつこうとするではありませんか。



ヒロシ「やめてくださいー!! 」



 逃げるヒロシ。



無数の大人たち「ヒロシサーン。」



 追いかける大人たち。


 

 鬼ごっこは長くは続きませんでした。



 20××年。この年に発表された、子供の死因ランキング。交通事故や病気という強豪を抑え、見事に1位に輝いたのは、「母親の彼氏、父親の彼女を始めとする『親の恋人』からの暴力」だったそうです。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る