ヒロシとエクスタシー

ヒロシ「マルぼん、こちら、僕の友人である徳里さん。『全日本公衆電話愛好者友の会 夢がりんりん 恋がりんりん 心はるんるん』の微笑町支部の代表を務めておられるんだ」



徳里「はじめまして、ヒロシさんからお話を聞いています」



マルぼん「はじめまして」



ヒロシ「徳里さん、実はマルぼんに相談があるんだって」



マルぼん「ほおほお」



徳里「携帯電話の普及のせいで、町内の公衆電話の数が激減しているのです。こうしている間にも、次々と公衆電話が撤去されています。なんとかならないでしょうか」



マルぼん「携帯電話を持てばいいじゃないですか」



徳里「無理です。私は公衆電話を愛しているのです」



マルぼん「は?」



徳里「愛美、愛子、愛奈、愛真、愛江、愛矢、愛太、愛ン、愛沙、愛姫、愛悠、愛無限大、愛攻、愛愛、愛星、愛生、愛居、愛珍、愛青、愛次、愛、愛太、愛五郎、愛愛愛愛おさるさんだよ、愛してるの響きだけで強くなれ太……すべて、私が町内の公衆電話につけている名前です。私は町内の全ての公衆電話と愛し合いました。愛し合ったのです。そんな愛し合った恋人たちが、次々と撤去されるのはしのびない! わが身が削られるかのような想いだ!」



マルぼん「ヒロシくんは、どこでこのような変態さんと知り合うのん?」



 そんなわけで、マルぼんとヒロシと徳里さんは町内の公衆電話を盛り立ててゆくため、義兄弟の杯を交わしたのでした。



三人「我ら生まれた日は違えども、死す時は同じ日同じ時を願わん」



ヒロシ「とりあえず、平日の昼間から駅前をうろうろしていた若者3,500人から『携帯電話のどこがいいんだよ。話してみろよ』とアンケートをとってきたよ。ライバルとはいえ電話は電話。携帯電話の良いところも、きっと公衆電話に活かすことができると思うんだ」



徳里「うわー」



ヒロシ「アンケートの結果、携帯電話の人気の秘密がわかったのさ。それは安心感、携帯電話を通して誰かと繋がっているという安心感さ。人間関係が薄っぺらいものになっている昨今、携帯電話を使った繋がりは、重要なコミュニケーションなんだね。人と人とのつながりを確認する手段なんだね」



マルぼん「ようするに、公衆電話で人と人とのつながりが実感できるようになればいいんだね、よし。そんな感じで公衆電話を改造しよう!」



 そんなわけで



マルぼん「これが改造した公衆電話さ」



ヒロシ「ごく普通の公衆電話に見えるけど」



マルぼん「誰かに電話をかけてみればわかるよ」



徳里「では、私の知っている未亡人の家に……はうあ!?」



ヒロシ「どうしたの!?」



徳里「受話器が少しずつ、温かくなってきたの! これ、このぬくもりは……あの時触れた、あの未亡人の手のぬくもり!」



電話先の未亡人「もしもし…どちらさま……もしかして、またあなたなの!? 徳里さんでしょ、いいかげんにしないとまた警察に」



徳里「ああ! 受話器から臭いが。これは、あの未亡人の口臭! ああ、ああ、あああ!」



マルぼん「この公衆電話は、電話相手のぬくもりや臭いなどを感じることが出来る公衆電話なの。受話器伝いに、相手の手のぬくもりや、においを感じることができる」



徳里「うわーすばらしい! 今すぐ町中の公衆電話をこれに改造しましょう!」



 その後、公衆電話は利用者増加。でも利用者のほとんどが、口の臭いなどにエクスタシーを覚える心に闇を持った人々だったために、『公衆電話』ならぬ『口臭電話』になってしまい、法律にひっかかり、速攻で撤去。微笑町から公衆電話は消え去りました。徳里さんもショックで死にました。 完。

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